大きな鏡の中には、少し大人びた自分が映っていた。

「どう?大人っぽくなったでしょ?」
「うん…自分じゃないみたいだ。」

「長さは殆ど変えていないんだ。全体的にボリュームを抑えて、サラサラの髪が生きる様に、毛先を軽くしてみたんだよ。」

 つまり…どういう事なのだろう?
確かに、前より随分軽くなった感じはする。襟足の辺りが、特に──。

 頭を左右に動かして鏡を覗き込んでいると、遥がスッと手鏡を取り出して、後ろ姿を見せてくれた。合わせ鏡で見る自分の後髪は、見た目も軽やかに変わっている。

「うん…いいかも。」

 切った髪の毛の分だけ、心が軽くなった気がした。

「ね? 髪型が変わっても、薙は薙のままだったでしょう??」

「そうだけど…何だか、いつもと気分が違う。」

「少しだけ、後押ししたんだよ。」
「後押し?」
「そ。薙の『親離れ』の後押し。」

 遥は、パチリと片眼を瞑った。
『親離れ』…か。確かにそうかも知れない。

「イメージ・チェンジは、そういう意味合いでするもんだよ。ほんの少し、自分を後押しするだけで良い。本当に変われるかどうかは、自分次第だ。」

「うん。少し解ってきた。」

 自分は自分──
誰かの真似じゃない道を、選ぶ。
自立とは、結局そういう事なのかも知れない。

「気に入った?」
「うん、とても。ありがとう、遥。」
「どういたしまして。」

遥は、ニッコリ笑って答えた。