「皆各々、長所と短所がある。でも、そういうの全部ひっくるめて『自分』なんじゃない?型に填める事で、自分本来の良さを打ち消してしまうなんて…そんな勿体ない事、薙にはして欲しくないな。」

シャキン!

また、ハラリと髪の束が落ちた。
遥の細く長い指で、何度も何度も掬い取られる。

鋏を入れる度に、どんどん新しい自分に変わってゆく。それは、とても不思議な感覚だった。

 仕上げにドライヤーを充てた後、櫛で型を整えながら遥は言う。

「この先、薙がどんな結論を出すのか解らないけれど…。もし、当主になる道を選ぶのなら、薙にしか出来ない遣り方で、薙らしい当主になれば良いよ。先代の真似なんてしなくていい。変えたいと思ったら、どんどん変えて良いんだ。だから、あまり考え込まないで。見ている俺まで辛くなるよ。」

「遥…」

 言葉を詰まらせるボクを気遣う様に…遥は、クシャリと髪を掻き混ぜる。

「ほら、笑って。悩み過ぎは、肌にも髪にも良くないよ。」

「髪にも?」

「うん。頭皮のコンディションが悪くなって、抜け毛が増えたりすることがある。だから、悩み事も程々に。──さ、出来たよ!」

 そう言うと、遥はサッとケープを外した。