「ねぇ、ちょっと鏡を見てご覧。右と左、同じ長さに揃っているかな?」

 言われて、改めて鏡を見る。

「うん、揃っていると思うけど…?」

「長さは同じに見えても、実は微妙~に変えてあるんだ。左右の癖が違うからね。」

「そうなの?」

「うん。髪にも癖ってのがあってね。薙の場合、左側の方が少しだけ外巻きに跳ねるんだ。だから、見た目を同じにする為に、切る分量や長さを少し変えているんだ。」

「へぇ──」

 それは知らなかった。
自分の髪なのに、左右で癖が違うなんて。

「髪にも、性格があるんだよ。人の性格が一人一人違う様にね。だから俺達は、それを生かす様にカットしてあげるんだ。」

「……。」

 その言葉に、ボクは静かに遥を見上げた。柔らかにカールした髪が、ライトの光に透けて、燃えるような緋色に見える。

「いるんだよね。モデルやアイドルのグラビア画像を見せて、『こんな感じにしてくださ~い』って言うお客様が。」

「…うん。」

「俺らは、それに近付けてあげようと努力するんだけれど…仕上がりを見て、あからさまに『え?』って言われちゃう事もあるんだよ。『イメージと違う』ってダメ出しされて、やり直す事もある。でもさ…」

 シャキン──!

また一房、髪が落ちた。
丁寧に櫛を入れて、全体の長さを調節する遥。その表情は、プロならではの緊張感に満ちている。