まるで音楽でも奏でるかの様に…遥は、器用に鋏を動かした。

シャキン!
シャキン、シャキン!!

リズミカルな音と共に、余分な髪が切り取られる。

 サラサラと溢れ落ちていくそれを鏡越しに眺めながら──ボクは、思わず口走った。

「親父の存在が重いのかも知れない。」
「伸さんの?どういう意味??」

「親父って、本当はとても凄い人だったんだなぁって…此処に来て、初めて解ったんだ。皆が親父を心から信頼していたって事も。だけど──」

「だけど?」

 シャキン──!

切り取られた右サイドの髪が、ハラリと肩に落ちた。まるで、自分の気持ちまで、溢れ落ちてゆくみたいに──。

 遥はボクの言葉を、じっと待っていた。
櫛で何度も髪を鋤きながら…鏡越しに、優しく此方を眺めている。

 ボクは、思い切って本音を打ち明けた。

「親父の存在が大き過ぎて怖いんだ。あんな風に出来るかどうか自信が無い。親父に向けられていた信頼が、全てボクに振り替えられるのかと思うと、腰が退けてしまう。親父と同じ働きを期待されるのは…困る。」

 シャキン!

返事の代わりに、鋏の音が大きく響いた。
見れば、左サイドの髪が右側と同じ長さに切り揃えられている。

「ほらね。だから言ったんだ。無理に自分を変える必要はないって。」

「?」

 言葉の意味が良く飲み込めないボクに、遥はニッコリ微笑んだ。