「ほらほら。何ボーッと突っ立ってんの?さぁ、座った座った!」
遥に促されて、ドレッサーの前に腰掛けた。あっと云う間にケープを巻かれ、髪に櫛が入る。
「真っ直ぐでサラサラな髪だね。パーマやカラーリングなんてした事無いでしょ?」
「うん、無い。」
「ヴァージンなんだね、髪も体も。」
「遥…」
「ふふ。冗談、冗談!でも、本当に良い髪だ。艶も張りもあるし、地肌も綺麗で傷みも無い。薙は、このまま何も弄らない方が良いかもね。」
「え?」
「無理に変える必要は無いってこと。髪も自分もね。」
…それは、少し含みのある言葉だった。
何かしら暗示されている様で、思わず考え込む。すると、遥は鏡越しにボクを覗き込んで言った。
「薙さ、今ちょっと悩んでるでしょう?」
「…え?」
シャキン──!
最初のハサミが入った。
短く切れた髪の毛が、ハラリと肩に落ちる。
「どうして解るの、悩んでいるって?」
「そりゃ解るよ。誰が見ても厳しい状況だし、況してや、そんな浮かない顔をされちゃあね。」
そう言って軽く笑うと、遥はダッカールを一房分だけ外した。
「…確かに、当主は大役だよ。責任も重いし、それ相応の働きも期待される。今までとは、ガラリと環境が変わってしまうだろう。でもだからと言って、薙の本質が変わる訳じゃないと思うよ。」
「それは、そうなんだけど…ボクには責任が重過ぎるよ。正直、逃げ出したい。」
「そっか。まぁ、気持ちは分かるけどね。」
遥は、長い指を器用に操って、どんどん髪を切っていった。
シャキン──!
シャキ、シャキン!!
軽快な音と共に、切られた髪の毛がハラハラと零れ落ちてゆく。
どんどん降り積もって、足元に小山を築く。ボクの気持ちとは裏腹に…頭が少しずつ軽くなる。
「やっぱり、当主になるのは嫌?」
「未だ良く解らない。ただ、簡単に引き受けちゃいけない気がする。何より、人の上に立つなんて、ボクには無理だよ。柄じゃない。」
「ふぅん、そう…。」
遥は、僅かに首を傾げて鼻を鳴らした。
遥に促されて、ドレッサーの前に腰掛けた。あっと云う間にケープを巻かれ、髪に櫛が入る。
「真っ直ぐでサラサラな髪だね。パーマやカラーリングなんてした事無いでしょ?」
「うん、無い。」
「ヴァージンなんだね、髪も体も。」
「遥…」
「ふふ。冗談、冗談!でも、本当に良い髪だ。艶も張りもあるし、地肌も綺麗で傷みも無い。薙は、このまま何も弄らない方が良いかもね。」
「え?」
「無理に変える必要は無いってこと。髪も自分もね。」
…それは、少し含みのある言葉だった。
何かしら暗示されている様で、思わず考え込む。すると、遥は鏡越しにボクを覗き込んで言った。
「薙さ、今ちょっと悩んでるでしょう?」
「…え?」
シャキン──!
最初のハサミが入った。
短く切れた髪の毛が、ハラリと肩に落ちる。
「どうして解るの、悩んでいるって?」
「そりゃ解るよ。誰が見ても厳しい状況だし、況してや、そんな浮かない顔をされちゃあね。」
そう言って軽く笑うと、遥はダッカールを一房分だけ外した。
「…確かに、当主は大役だよ。責任も重いし、それ相応の働きも期待される。今までとは、ガラリと環境が変わってしまうだろう。でもだからと言って、薙の本質が変わる訳じゃないと思うよ。」
「それは、そうなんだけど…ボクには責任が重過ぎるよ。正直、逃げ出したい。」
「そっか。まぁ、気持ちは分かるけどね。」
遥は、長い指を器用に操って、どんどん髪を切っていった。
シャキン──!
シャキ、シャキン!!
軽快な音と共に、切られた髪の毛がハラハラと零れ落ちてゆく。
どんどん降り積もって、足元に小山を築く。ボクの気持ちとは裏腹に…頭が少しずつ軽くなる。
「やっぱり、当主になるのは嫌?」
「未だ良く解らない。ただ、簡単に引き受けちゃいけない気がする。何より、人の上に立つなんて、ボクには無理だよ。柄じゃない。」
「ふぅん、そう…。」
遥は、僅かに首を傾げて鼻を鳴らした。