…その時。不意に病室のドアが開いて、若い男性看護師が入って来た。

「甲本さん。お加減、如何ですかー?」
「あ、はい。なんとか…」
「そうですか、良かったですねー。」

…ちっともそんな風に聞こえない。
非常に事務的だ。

看護師は、点滴の確認をしながら、片手間な様子でこう続けた。

「軽度の熱中症ですが、念の為、明日まで入院して下さいねー。」

「入院?」

「あ。保険証お返ししまーす。」

そう言って、ボクに保険証を手渡す。

「夕食は七時からです。お薬は、その時にお持ちしますねー。じゃ、何かあったら呼んで下さーい。」

 いちいち語尾を延ばしながらそう言うと、看護師は、さっさと出ていってしまった。手にした保険証をジッと眺めながら、ボクは目まぐるしく考えを巡らせる。

一体誰が──何処から、ボクの保険証を取り出したのか?心当たりは唯一つだ。

ゆっくり二人を振り向くと、女の子が、不意に片側の頬を引き攣らせた。

「この保険証、何処から?」
「…ゴメン。バッグ開けちゃった。」
「開けた?ボクの荷物を勝手に?!」

「身元確認の為だよ。仕方が無かった。手続き上、止むを得ない状況で──」

男が畳み掛ける様に弁明する。