…それからボク等は、『遅い朝食』と『早目の昼食』を同時に済ませた。食後のお茶を味わいながら、不意に遥が訊ねてくる。

「この後、暇?」
「暇だけど。」
「じゃあ、髪切ってあげるよ。」
「髪…?」
「うん。俺、美容師なんだ。」

遥が美容師!?
成程。言われてみれば、あの業界特有の雰囲気がある。

序(ツイ)でに、暫く髪を切っていない事にも気が付いた。伸びた分が鬱陶しくて…正直、困ってもいる。

「…いいの?」

 遠慮がちに訊ねると、遥はニコッと笑って答えた。

「勿論だよ。俺が今以上に可愛くしてあげるからね。」

 ──可愛くして?
何度聞いても慣れない形容だ。
何しろ、「可愛い」なんて、生まれてこの方言われた事がない。お世辞と解っていても、こう度々連呼されては、どうにもこうにも…。

 面映(オモハ)ゆい気持ちのまま──。
ボク等は連れ立って、遥の部屋に向かった。

 『どうぞ』と通されたその場所は、まるで美容室そのものだ。

真っ先に目を引くのは、大きな鏡。
その前には、シンプルなアクリルガラスのドレッサーが置かれ、煌びやかな外国製の化粧品が、所狭しと並んでいる。

 もっと驚いたのは、部屋の内装だ。

壁は一面、白い硅藻土で塗り籠められていて、所々にアンティーク・タイルが埋め込まれている。

窓も跳ね上げ式の、洒落たサッシに取り換えられていた。

 天井には、シルバーの照明器具。
お揃いの天井扇が、カラカラカラと回っている。

まるで、パリのアパルトマンの様だ。
畳も剥がされ、ブラウン系の床板に張り替えられている。和室だった頃の面影など一切見当たらない。

「遥…ここ…」
「びっくりした?」

 びっくりなんてもんじゃない。
本当に、ボクの部屋と同じ造りなのか?
全面的に改装されていて、殆ど原形を留めていない。