長い渡殿を巡り、母屋に向かう途中──

「薙!」

突然、誰かに呼び止められた。
声のする方へ顔を巡らせると…

「こっちこっち~!」

西の対から、満面の笑顔で向かって来る遥の姿があった。ヒラヒラと片手を振っている。

「お早う、遥。いや、もう『こんにちは』かな?」

「あはは。随分ごゆっくりだったねぇ、薙?もう、お昼だよ。流石に『お早う』は変だな。一纏めにして『おはにちわ』でどう?」

「変なの。何それ?」
「朝昼の挨拶が一度に出来ちゃう裏技?」

『ダメ?』と首を傾ける遥に、ボクは不覚にも吹き出してしまった。

不思議な人だな、彼は。
昨夜初めて会ったとは思えない。
何やら、昔からの友達みたいな錯覚に捉われる。

「それよりさ、薙。聞いたよ、二日酔いだって?具合はどうなの??」

「え…と、それは、もう平気──。」

 …バレている……。

その居心地の悪さに肩を竦めると、遥は、ふわふわ揺れる明るい色の髪を掻き上げる様にして笑った。

「今夜は俺と呑もうよ。勿論、サシで!」
「へ?」

「だって!俺だけ、皆より少~し出遅れているじゃない?他の連中とは、もうかなり仲好くなったみたいだし、狡いよ。」

仲好く…?
それはどうだろう。
微妙に違う様な気がするのだが。