──小一時間後。

軽やかに、部屋のインターホンが鳴って、氷見が声を掛けて来た。

『薙さま。湯殿の用意が調いました。』

「うん、ありがとう。」

ヒョイと着替えを抱えると、ボクは独りで浴室に向かう。

 大きな湯船に満々と張られたお湯は、ほんのりハーブの香りがした。氷見の細やかな心遣いが、嬉しい。清涼感が、宿酔いの体を優しく包んでくれる。

 それにしても、だ。
昨夜も感じたけれど…この屋敷の風呂は、驚くほど豪華だ。

桧の浴槽に、広い洗い場。
サウナ室やミストシャワー、脱衣室にはマッサージチェアまである。まるで温泉旅館宛らの設備だ。個人で使うには、ちょっと贅沢過ぎやしないか?

何やらゴージャスな気分に浸りながら…ボクは、ぐんと腕を伸ばした。見上げれば、天窓から、四角く切り取られた青い空が覗いている。

好い気持ちだ…
昨夜の酒も、すっかり抜けてしまった。あれ程悩ましかった頭痛も、スッキリと治まっている。

 入浴を終え…シンプルなTシャツと、履き慣れたジーンズに着替えた途端、腹の虫が『キュルル』と鳴いた。

「ゲンキンだなぁ、我ながら。」

 誰にともなく呟いて、ボクは浴室を後にする。