「…さま。薙さま。」

誰かがボクを呼んでいる。
誰だろう?
聞き覚えのある優しい声だ。

「薙さま。…て下さいませ。薙さま。」

起きて──?
ああ、もう朝なのか。

起きなけれは…だけど、変だ。
体が重い。頭がズキズキする。

「──失礼致します。」

 唐突に部屋の戸が開いて長身の男性が現れた。

「…氷見?」

目線だけを向けるボクを見て、氷見は少し心配そうな表情になる。

「如何なさいました、薙さま?? どこか、お具合でも?」

「うん…少しだるい。頭、痛いし。」

 そう言うと。氷見は忽ち眉を曇らせて、床の傍までにじり寄った。

「失礼。」

冷たい手を、ボクの額に置く。
それがとても心地好い。

 ややあって、氷見は静かに告げた。

「良かった、お熱はありませんね。宜しければ、宿酔いに良く効く薬湯を御持ち致しましょうか?」

宿酔い?
つまり、これは『二日酔い』の症状なのか。
うゎ─…やっちゃったな、これ。
来た早々、二日酔いで寝込むなんて最悪だ。

「ねぇ、今何時?」
「正午を少し過ぎたばかりです。」
「お昼?もう、そんな時間!?」

「申し訳御座いません。良くお休みでしたので…敢えて、お声をお掛けしませんでした。」

「…そ、そう。」

 ボクが窓を見上げると、氷見が空かさず障子を開けた。

「──んっ!」

眩しい。
昼間の太陽が一気に射し込んで来て、目が開けられない。

「大丈夫ですか?」

 慌てて障子を閉める氷見。
気を遣わせたくなくて、ボクは無理に笑顔を作った。

「平気平気。あの…祐介は?」
「既に、ご出勤なさいました。」

 仕事に行った!?──嘘っ!
信じられない…昨夜あんなに呑んだのに。