「そうだよ。機会があったら、本人に直接訊ねてみるといい。まぁ…話してくれないかも知れないけれどね。」

 …驚きだ!
彼にそんな才能があったなんて──!!
だけど、どうして過去形なのだろう?
もう辞めちゃったのだろうか、何故…??

知りたい。だけど、不用意に触れてはいけない気もする。

根掘り葉掘りは、嫌われそうだ。
話を訊くなら、気まずくならない様に…慎重に空気を読むべきだろう。

 独り悶々と考えていると、祐介の腕がスッと延びてきた。蒼いグラスが、忽ち酒で満たされる。

 こうしてグラスが空になる度に、酒を注いでくれるのだけれど──ボクが返杯しようとすると、然り気無く手を翳してそれを断わる。

そうして自分は、手酌で静かに呑んでいるのだ。

 ──狡い。一方的に呑まされているみたいで気に入らない。膨れっ面になり掛けて…ふと頬を押さえた。

いけない、いけない。
また『焼き饅頭』に成りかけている。
直さなくては、この癖だけは──

 突然、クスリと祐介が笑った。

「何やってんの、さっきから?」
「べ、別に。」

 慌てて目を反らすと、祐介は口元に拳を当てて、また一頻り笑った。

「面白いね、薙は。見ていて飽きない。」
「…そんな可笑しい?」