湿った舌先。
吹き掛けられる生温い吐息に、押し殺した喉から、奇妙な声が洩れる。

 物も言えず身を竦めるボクを、上目遣いに見上げながら…祐介は言った。

「本当に──キミの血は甘い。甘露の様に喉に沁みるよ。それに、とても良い香りがする。僕達にしか判らない『首座の味』だ。」

「祐介…」

「この血を慕って、これからもっと多くの魂が集まって来る。皆、嬉しいんだ。この家に当主が還って来てくれて。」

「…ボクは未だ…当主じゃない、よ…」

「それでも、血は裏切らない。些少な魍魎達ですら、キミが『何者なのか』を本能的に知っている。一度は失われた存在──だが、こうして再び『キミ』という継承者を得た。だから、喜んでいるんだよ。」

 そんな!ボク…

ボクは未だ…当主になるかどうかも決め予ていると言うのに!?

「…僕は、事実を言ったまでだ。だけど、怖がらせちゃったのなら謝るよ。」

 こちらの動揺が伝わったのか、祐介の声が少しだけ優しくなった。

「でもね、薙。これだけは覚えておいて?首座の血は甘い誘い水だ。全ての魂が寄る辺るとする。生ける者も、死せる者も──皆、首座の救済を待っている。だからこそキミに、無条件の愛情を注ぐんだ。皆が浮かれているのは、その所為だよ。皆、キミに救いを求めている。首座によって与えられるそれを、心待ちにしているんだ。」

「救いだなんて…出来ないよボク、そんな大それた事!」

「──そうかな?少なくとも、ここにいる連中は、キミを当主と認めたようだよ?」

「ちょっと待ってよ。ボクは未だ何も…」
「僕も…待っていたんだよ。」
「え?」

 そう言うと──。

祐介は含みのある眼差しで、ボクを覗き込んだ。