「薙。」

 独り物思いに耽っていると、祐介が急に顔を近付けて言った。

「向こうに座って。立ちっ放しじゃ、話も出来ないよ。」

「…うん。」

 促されて座ってはみたけれど、どうにも居心地が悪い。

それもその筈。ボクは今…閉ざされた空間に、祐介と二人きりなのだ。然程、親しい訳でもなく──況してや、第一印象が最悪だった彼と。

 慣れない雰囲気に緊張していると、スイとグラスを差し出された。

「どうぞ。」
「あ…ありがと。」

 蒼いグラスに、なみなみと注がれたのは、水晶を溶かした様な澄んだ日本酒だった。手吹きガラスの水玉模様が映り込み、キラキラと輝いている。

…宛ら、夜の雫を集めたみたいに。

 ふと顔を上げると、祐介が静かな笑みを履いて、ボクを見ている。細めた眼差しに促されて…ボクはそっと、グラスに唇を近付けた。

 仄かに、フルーツの様な香りがする。
透明な雫の集まりを口に含んだ刹那…舌に、ピリッと程良い刺激を感じた。

まろやかな口当たり。
雑味も濁りも無い、上品な後味の酒だ。
ゆっくりと喉の奥に流し込めば、微かな熱がポウッと体中に拡がる。

 これは、日本酒ならではの温もりだ。
キン!と冷えた酒が体内に入ると、瞬時に熱に変わる。

その少し後から、フワリと良い香りが鼻孔に返って来て──

美味しい!
良く磨かれた、純米の大吟醸だ。