「解った。ボク、もう怒らない!!膨れっ面もやめる!」

「そうしな。朝から晩まで怒ってばかりじゃつまんねぇだろう?楽しめよ。」

「楽しむって…この状況を?」

「そうだ。人の一生は限られている。笑って過ごすも一日、怒って過ごすも一日。同じ『一日』なら、どっちがいい?」

「…笑っている方。」
「だよな?」

 成程。確かに、此処に来てからのボクは、ずっと怒ってばかりいた様に思う。一慶に言われるまで、気付きもしなかった。

 苛々して…悩んで、自棄《やけ》になって…無闇矢鱈とストレスを溜め込んでいた。だから、疲れるのだ。

 そう言えば、心なしか全身がだるい。少し眠くもなって来た。大きな欠伸を噛み殺すと、一慶はクスリと笑って言った。

「そろそろ部屋に戻れ。今日は、もう休んだ方が良い。」

「うん。そうする。」

 有難い言葉に背を押されて、ボクはゆるゆると立ち上がる。引き戸に手を掛け、『じゃあ』と言って振り向けば、彼は小さく手を挙げてくれた。