何となく、それは解る気がした。
『目に見えないモノ』を、無条件に信じろと云われても困る。

 では、もし…
ボクが当主に成らなかったら──?
宙に浮いた疑問をほったらかしたまま、平然と日常に戻れるだろうか?

 …無理だ。
全てを忘れてしまうには、ボクは中途半端に関わり過ぎている。

「お前さ…その顔やめたら?」

 突然、一慶が溜め息を吐いた。ボクの右頬を指でツンと突つく。

その顔とは、どの顔だろう?
言われている意味が解らない。

 僅かな沈黙の後──
ボクをジッと見ていた一慶が、堪え切れなくなった様に噴き出した。

「だから…その膨れっ面だよ。そんな顔ばかりしていると、その内、元に戻らなくなるぞ。」

「膨れっ面!? そんなに膨れている?」
「あぁ、そりゃもうパンパンにな。」
「ひどい…」

「嘘だと思うなら、鏡を見てみるんだな。最初に会った時から、ずっと膨れっ放しだ。焼き饅頭みたいな顔をしている。」

 焼き饅頭?──もっと酷い!

「ほら、それだよ。その膨れた頬っぺた。焼き饅頭そのものだ。」

「もう──っ!! 何だよ、さっきから!焼き饅頭焼き饅頭って、失礼だぞっ!!」

 ボクが怒ると、一慶は朗らかに笑った。
腹を抱えて、いとも可笑しそうに──