そんなボクを、女の子は心底呆れた様に──否。いっそ軽蔑したかの様に、双眸を眇《ｽｶﾞ》めて眺めている。

「そう、あくまで惚けるつもりなのね。ちょっとからかった位で、そこまで拗ねるなんて…案外、子供ね。ガッカリだわ。」

　ガッカリ!? 何故??
ボクの何が、彼女を失望させた?!
良くは解らないけれど、解らないなりに屈辱だ。

　──独りで混乱していた、その時だった。
ガラリと病室のドアが開き、背の高い、黒ずくめの男が入って来たのは。

ボク等の会話は、忽ち、彼の苛立った声に中断される。

「あ～、やっと終わった！入院手続きに、こうも時間が掛かるとはな。…祐介のやつ、いちいち細かくて参ったぜ。」

　憤然と頭を掻きながら、若い男が、ずかずかと大股で歩いて来る。…と、そこで漸く、ベッドの上のボクと目が合った。

ボク等は互いに、パチパチと目を瞬(ｼﾊﾞﾀﾀ)かせる。

「何だ。起きたのか、ナギ？」

　いきなり呼び捨てにされて、ボクは、話し掛ける切っ掛けを失ってしまった。

何故だ──？

良く考えなくても、ボク等は初対面だった筈なのに…二人とも、妙に馴れ馴れしいのは何故なんだ??

どうも会話が噛み合わない。
そう感じるのは、ボクだけなのだろうか？

名前の事ばかりでなく──。
彼等は、とうにボクの素性を知っている様だった。それがまた、どうにも釈然としない。

「何だよ。こいつ、何怒ってんの??」

長身の男が、怪訝に眉根を寄せて言う。

「警戒しているのよ。アタシ達が、名前を知ってた事が気に入らないんだって。」

　ボクの代わりに、女の子がそう答えると、男は呆れ果てた様に溜め息を吐いて言った。

「何だよ、そりゃ？全く、訳が解んねぇな。…お前ねぇ。つまんねぇ事でいちいち怒るなよ。さらっと聞き流せ。」

「つまらなくないよ！聞き流せない!!」

「ほら、またそうやって鼻息を荒げる──。無駄にCO2を排出するな。これ以上オゾン層を破壊するようなら、お前を『人類の敵』と見なすぞ？」

「はい──っ!?」