「つまり…四天は、全員が武術の使い手なんだね?苺や祐介も?」

「あぁ。各々、担当分野が違うけれどな。仏像なんかで見たことないか?四天王と呼ばれる、武将の様な格好をした『神』が、『菩薩』を護る様に、四方に配置されて立っているだろう?」

「うん…。」

「六星行者に於ける四天とは、その四天王に準《なぞら》えたものなんだ。」

 ──四天王。
仏教とその信徒を護る、天部の神々。
持国天、広目天、増長天、毘沙門天の四神が、東西南北に配されていて、その中心に観音菩薩が立つ。

「そして時には、当主の《影武者》も演じる。危険を顧みず、自らの命に代えても当主を護る。それが六星の四天だ。」

「影武者…そんな事まで…」

 ふと。おっちゃんが寂し気に呟いていた言葉を思い出した。

『俺は、兄貴の影武者でよかったんだがなぁ…』

 あれは、そういう意味だったのか─…。

「おっちゃんは親父の影武者だったの?」

 一慶は、小さく頷いて答えてくれた。

「そして、先代の『影武者』を務めていたのが、鍵島の爺さんこと鍵島惟之(カギシマ コレユキ)だ。奴は、先代・先々代と二代続けて《金の星》の東方を護ってきた。『東天の鍵島』と言えば、一座でも最古参の重鎮だ。今は甲本家の筆頭総代に就いていて、首座の目付け役でもある。」