「仕掛けたのは俺の方だ。ちゃんと受け身を取っていただろう?腕は、後で祐介に癒霊して貰うよ。安心しろ。」

 不意に大きな手が延べられて、ボクの髪をクシャリと混ぜた。微笑む余裕さえ見せる彼に、つくづく思い知らされる。

 この人は強い。かなりの手練れだ。

そんな素振りは微塵も見せないけれど、だからこそ強さが判る。彼の身体の奥底に、圧し殺した覇気が充ちていると、今ならハッキリ認識出来る。

 先の一手も、彼ほどの使い手なら、充分に回避出来た筈だ。だけど、ボクの実力を測る為に、わざわざ手加減をした。危険を承知の上で、敢えて技を掛けられたのだ。

 ──そもそも。技を掛けられて、この程度の怪我で済んだ事自体が、ボクには驚きだった。あの締め技は本来、腕を骨折させて、敵の動きを封じる為に仕掛けるものだ。

それを彼は、咄嗟に半身を返して受け止めた。

賢明な判断だったと思う。
脱臼する危険性はあったけれど、骨折するよりは、まだ被害が少なくて済む。

 凄い人だ…。
この判断力と身体能力は並みじゃない。
本気を出した一慶に、多分ボクは勝てないだろう。

組む前から敗北感を覚えるなんて…。
これも、初めての経験だ。

「昨日──」

短い沈黙を破る様に、一慶が口を開いた。