覚えが無い。
ベッドの上に掲げられた名札も、無記名のままだ。

なのに、どうして彼女は、ボクの名を知っているのだろう?

 女の子は、一瞬キョトンとボクを見た。

「変な子ねぇ…。自己紹介なんてしなくても、名前くらい解るのが普通じゃないの。」

「いやいや、逆でしょう!? 自己紹介しなきゃ解らないのが普通だよ!」

「──何を言っているの?これくらい出来て当然でしょう?? 簡単な事じゃない。相手の魂魄(コンパク)を読めばいいのよ。ちゃんと名前が書いてあるもの。」

こんぱく──魂?
魂に書いてあるというのか、人間の名前が??

「な…何だよ、それ!? 知らないよ、そんなのっ!!」

 思わず大声を上げると、女の子は怪訝に眉根を寄せた。

「…ねぇ、いつまで冗談言っているの?もう、やめましょうよ。そろそろ本題に移らないと、話が進まないわ。」

「本題って…??」

「まさか、何も聞いていないの?じゃあ、何をどこから話せば解るのよ、言ってごらん??」

 ──何処からだろうと解るものか!
そもそも、魂に名札が付いているなんて、学校でも習わなかった。何も知らないし、解らない。