独り悶々と考えに沈んでいると、一慶が突然ボクの着物の右袖をたくし上げた。

「!? ちょ、ちょっと!」

何をするんだ、いきなり?!
動揺するボクを後目に、彼は端正な顔を近付けて来た。まじまじとボクの肩先を見ている。

「へぇ…綺麗に取れているなぁ。シミ屑一つ残ってねぇぜ。流石、祐介。」

「え?」

 言われて初めて自分の右肩を見る。
あの黒い出来物が、綺麗さっぱり無くなっていた。

「これ…祐介が取ってくれたの?いつ??」

「お前が病院で寝落ちている間に、処置したんだよ。予想外にしつこくて、あれにしては珍しく苦戦した様だな。後で、礼でも言ってやれ。」

「──うん。」

 そうだったのか。
ボクが寝ている間にそんな事が…って、ん?

「もしかして、一慶も見たの?」
「え?」
「見たの??ボクの右肩の──」

「いや。肩しか見てねぇから。」
「でも見たんだね?」

 一慶はバツが悪そうに咳払いして、視線を泳がせた。その態度が、そのまま彼の答えになっている。ボクの頭に、カッと血が昇った。

「しっ…信じられない!」

「何がだよ!? 肩だろ、肩!今だって見たじゃねぇか。状況は同じだ!」

「違うよ、全然違う!だって昨日は、ボクが『寝ている間に』見たんだろう?」

「肩だけだって!他は見てねぇよ!!」
「当たり前だ!! 見ていたら殺すっ!」
「誰が見るか、そんな干物みたいな身体!」

「あ、酷い──!! 大体、最初から失礼なんだよ!幾ら式神を消す為だからって、こちらが無抵抗なのを良い事に、乙女の寝込みを襲うなんて!」

「襲ってねぇから。それより『乙女』って誰の事だ、お前か?だとすれば、著しく外見に反する表現だぞ。お前みたいなのでも、一応恥じらいと思(オボ)しき感情はある様だが、『乙女』等という誇大表現は控えた方が良いぞ?思い込みも甚だしい。」

「───。」

 ボクは、無言で拳を振り上げた。

「解った、悪かった!謝るから拳を降ろせ!! 話が進まねぇだろうが!他にも訊きたい事があるんじゃないのか!?」

 確かに、訊きたい事は山ほどある。
一慶は、こういう失礼な人間なのだ。いちいち激昂している場合じゃない。

 静かに拳を降ろした途端、一慶はホッと溜め息を吐いた。まるで、猛犬を宥める飼い主の様である。

何やら──そこはかとなく腹が立つ。