「『鍵島の爺さん』ってのは、俺達の大叔父に当たるんだ。名前くらいは知っているか?」

 ボクは首を横に振った。

「…そっか。伸さん、本当に何も教えてやらなかったんだな。じゃあ分家の奴らなんて、殆んど知らないだろ?」

「殆どどころの話じゃないよ。甲本家の親戚なんて、全く知らない。一慶達と会ったのだって、昨日が初めてだもん。」

 『だよなー』と呟いて、一慶は困った様に頭を掻く。

そうして、暫し考えを巡らせた後。
慎重に言葉を選びながら語り始めた。

 鍵島惟之(カギシマ コレユキ)は、ボクらの祖父──先代首座の、実弟に当たる人物だ。かなりの高齢だが未だカクシャクとしており、永く生きただけに老獪で、中々に喰えない爺さんらしい。

四天の長だったおっちゃんが首座代理となり、実質的に四天から外れてしまった今。

《金の星》四天衆のまとめ役は、鍵島惟之が代行を務めていた。

「えっと、それで?その鍵島のお爺さんは、ボクにどんな式神を憑けたの?」

最も気掛かりな事を真っ先に訊ねると、一慶の眉が不快そうに歪んだ。

…何だろう?厭な感じがするのだけれど。

「お前さ、右肩に出来物があっただろう?」
「うん、あった…」

 一慶の云う通り。
最近、黶(ホクロ)の様な黒い出来物が現れて、ちょっぴり気になっていた。

とは言え、別段痛みも無かったし…特に膿んでいる風でも無かったので、医者にも診せずに放置していた。

「あれが、ヤツの式神だ。」
「え──っ!?」

「あの爺さん、性悪だからな。そういう悪趣味な仕事をするんだよ。普通、式神と云えば、人形(ヒトガタ)とか動物とか虫だとか──そういう『形』を打つものなんだが…」

「あの出来物が…式神?!」
「あぁ。黶神(ホクロガミ)と言うらしい。」

うわ、気持ち悪───ッ!
ボクは自分の肩を抱いて身震いした。最早、悪趣味だとか性悪だとか、そういう次元ではない気がする。

「なにそれ?気持ち悪い!変態?!」
「だろう?まぁ、そういう爺ィだから。」
「………。」

 ──成程。
性格的に、相当問題がありそうだ。
厭だな、そんな人が親戚だなんて…