「あぁもう、親父の所為(セイ)で無駄に疲れたな。お前は平気か?」

 長い足を畳の上に投げ出して、一慶が訊ねる。ボクは、コクコクと首を縦に振りながら答えた。

「ボクなら平気だよ。一慶の方が大変だったでしょう?大丈夫なの??」

 すると彼は、軽く片手を挙げて応えてくれた。疲れはしたが、別段問題は無さそうである。何にせよ、やれやれだ…。

「鍵島の──」
「え?」
「鍵島の爺さんの話、してやるよ。」

不意な言葉に、ボクは束の間押し黙る。

「──いいの?」
「約束したろう?」
「う…ん。」

確かに約束はしたけれど──本当に聞いちゃって平気なのだろうか。何やら、理由有りの様子だったけれど…??

 柄にも無く躊躇していると、一慶は不意に手を延べて、ボクの短い髪をクシャリと混ぜた。

まるで、子供の頃に還ってしまった様で擽ったい。ギュッと目を閉じると、思いがけず優しい声が降って来た。

「正直、お前には同情している。訊きたい事も、腹の立つ事も山程あるだろう?昼間のあれじゃあ、如何にも説明不足だもんな。一緒に、ひとつひとつ解決しよう。俺の解る範囲で教えてやるよ。お前には『知る権利』がある。」

「一慶…」

 ボクの言葉を然り気無くなぞると…彼は、ふわりと微笑って言った。