問い返そうとした途端、不意に遮られてしまう。どうしたんだろう?

やけにソワソワと辺りを窺っている。

「それ、本当にマズいんだ。後で必ず事情を話す…だから今は。」

 ──そう言うと。
人差し指を立てて、自分の唇に押し当てる。

 要するに『黙れ』という事か?
何故、今、訊ねてはいけないのだろう?

 訳も分からず頷いたが…。
それきり会話が続かなくなってしまった。お互い何となく押し黙ったまま、また暫く歩く──。

 …やがて。回廊を幾つか曲がった先で、ピタリと一慶の足が止まった。

「この部屋だ。」
「此処?」

 おっちゃんの私室は、西の対屋の中央に在った。丁度、中庭への降り口がある辺りだ。

「開けてくれるか?」
「うん。」

 ボクは、先に立って部屋の戸を開ける。
その途端──視界に飛び込んできた映像に、言葉を失ってしまった。

 扉の向こうには、世にも怖ましい光景が拡がっている。

本が乱雑に重なった黒塗りの文机。
出しっ放しの鞄。
山積みになった書類の束。
着替えの山、紙屑の山。

 その遥か向こうに、長い間敷きっ放しにされていたと覚しき組布団が見える。如何にも、単身赴任のオヤジの部屋という感じだ。荒み切った有様に、声も出ない。

「うゎ!何だよ、これ!? 相変わらず散らかってんなぁ…。」