一慶は曖昧に言葉を濁した。
ボクの視線を避ける様に、ふと顔を背ける。

その時──

「あぁ?! 式が何だって!?」

 突然おっちゃんが、大声で会話に割り込んで来たので、また体勢が崩れてしまった。

「式ってのはアレだ。その~卒業式とか結婚式とか、そういう賑やかなアレだろ?!」

 前後不覚のおっちゃんが、支離滅裂な事を言い始める。

…煩い。耳が痛くなる。
酒臭い息を吹きかけられて、気分は最悪だ。

「薙~お前はまだ、嫁いじゃ駄目だぞ!いいか!?おっちゃんが、お前に相応しい男を、ちゃんと見繕ってやるからな!」

「…何言ってんの。結婚なんて早いよ。」

「そう!結婚なんて早い!!まだまだ嫁になんか出さねぇぞ!お前の婿は俺が選ぶ!!」

「ちょ…やめてよ、そんな大声で…」

「薙~おっちゃんを置いて嫁に行かないでくれ、頼むよ~!!」

「………。」

 ──おっちゃん、面倒臭い。
ボクは一慶に訊きたい事があるのだ。
酔っ払うのは構わないが、静かにしていてくれないだろうか。

 話の腰を折られて、ボクは少々苛立っていた。言葉の通じない相手に、何を言っても無駄である。黙らないなら、黙らせるまでだ。

「薙~!」と、しなだれ掛かって来たおっちゃんの鳩尾に、裏拳で当て身を喰らわせる。