ゆっくりゆっくり歩く回廊──。
雨戸は全て閉ざされていて、外の景色は全く見えない。

暗い足元を仄かな明かりが照らす以外は、何処もかしこも真っ暗だ。

まるで、お化け屋敷のよう…
夜中に独りでトイレに行けるかどうか、自信が無い。床板の軋む音だけが、やけに大きく耳に響く。

 おっちゃんは、相変わらずグデングデンのままだった。

重い──
一歩踏み出す毎に、大きな体がドンドン前へと傾いでゆく。

一慶は、その重量の殆んどを一人で担いでいた。ボクは、おっちゃんの体がヨロケないように支えている程度で、あまり役には立っていない。

それなのに、この重さ──。
酔っ払いの介抱は重労働だ。

「悪かったな、手伝わせて。」

 不意に、一慶が話し掛けてきた。
口元に軽く笑みを履いて、ボクを見ている。

「ボク、あまり役に立ってないよ?」
「いや──」

一慶が何か言い掛けた時、おっちゃんが突然、身動ぎした。『てやんでぇ、べらぼうめ!』と大声で喚いて、身をくねらせる。

「おっ……と!」

いきなり暴れた勢いで、一慶の肩がガクンと下がった。よろめいて転びそうになった處ろを、間一髪、ボクが支える。

そうして何とか転倒を免れると、二人同時に安堵の溜め息を吐いた。