「ほら、親父。起きろ!」

 広間の片隅で、突然大きな声がした。
驚いて振り返ると、一慶が、おっちゃんの巨体を抱え起こそうと苦戦している。

「こんな所で寝るなって、親父!」
「んあぁ?」

 おっちゃんは、瞼を微かに持ち上げて辺りを見回した。

「…んだょ、ここ何処だぁ?」

一慶が困った様な呆れた様な顔をして、肩を叩いているけれど、おっちゃんは寝転んだまま動かない。まるで冬眠中の熊だ。

 どうするつもりだろうと眺めていると、不意に祐介が耳元で囁いた。

「彼を手伝っておいで。」
「え、ボク?」

「あぁ。キミは、そのまま部屋に帰るといい。皆に付き合っていると、朝まで抜けられないよ?」

 ──成程、その手があったか!
祐介のアドバイスに従って、ボクは、いそいそと一慶の加勢に向かった。

「手伝うよ。」

一言声を掛けてから、おっちゃんの背に回り後ろから押し上げる。一慶は、一瞬キョトンと瞬きをしたが…その後、妙に納得した様に頷いて言った。

「じゃあ、頼む。」

「うん。」

 ボクは、おっちゃんの両脇に手を差し込み、胸の上で指を組んだ。

「…お…っちゃん、起きてよっ!」

 持ち上げるのは無理だとしても、せめて上体を起こしたい。けれど、おっちゃんは微動だにしなかった。