そこへ──危うい足取りで、苺がやって来た。

「なぁぎちゃん!ラメよ、日本酒なんて!やっぱ、女の子は可愛くカクテルでしょ、カクテル~ッ!」

 グラスを掲げてフラフラ歩いて来る苺。
まるで、『千鳥足のコント』の様だ。

「ちょっと、苺。危ない…」

思わず手を延べると、ペシッと叩き落とされた。

「らいじょぶ!らいじょぶらって!!」

大丈夫…と言っているつもりらしい。
だが、完全に目が座っている。

苺は、よろけたついでに、ボクの隣にペタンと座ると、いきなり目の前にグラスを突き出した。

「呑め、薙!」
「え…」

差し出されたカクテルは淡いピンク色。
ピーチ系の甘い香りがする──でも。

「苺…ボク、まだ…。」

「あにをコラ~!アラヒの酒が呑めらいって言うのかぁ!?」

 …呑めません、未成年だから。
たとえ苺様のご命令でも、そればかりは出来ません。

「もう、しょ~がない子ねっ!」

 苺は酔った目でボクを睨み付けると、そのままクーッとグラスを干した。それを見た沙耶さんが、嫌味っぽく嘲う。

「あら。日本酒大好き苺ちゃん?いつからカクテル派に転向しちゃったのかしら?」

「今日から。」
「どうして?」
「オバサンみたいらから。」

「んまぁ~可愛くないっ!日本酒の何処がオバサンなのよ?!」

沙耶さんは、苺のこめかみを拳でグリグリしながら言った。

「日本人なら日本酒でしょう、日本酒っ!ねぇ、いっちゃんもそうでしょ!?」

「潔斎中につき、ノーコメント。」

 一慶は、グラスに注がれたウーロン茶をヒョイと掲げて見せた。

──そう。
彼は今、酒を呑んじゃいけないのだ。
新しい行を修めている最中は、肉魚・酒の類いは一切口に出来ないらしい。

これを《精進潔斎》と云うのだそうだ。…全て、おっちゃんの受け売りだけれど。

 一慶に軽くいなされた沙耶さんは、真っ赤になって怒った。

「んも~!どいつもこいつも!」

ヒステリックに叫ぶなり、お銚子から直接酒を煽る。

あぁ、もう…美女のイメージが崩壊寸前だ…