「薙──」

 窘(タシナ)める様な、おっちゃんの声。
だがボクは、やめなかった。

これ以上、おだてられるのは御免だ。どうせ直ぐに出て行くのだし、この場でハッキリと意思表示した方がいい。

 ボクは高飛車に顎を聳やかして、言い放った。

「生憎ですが、ボクは、皆さんのお眼鏡に敵う様な器じゃありません。」

「あら、どうして?」

「式神を通じて見ていらしたんでしょう?でしたら、もう充分に、ご理解頂けていると思いますが?」

「………」

 当て付けに、そう言うと…。沙耶さんは、真っ赤な唇の端を『ニッ』と吊り上げた。それまでとは、全く種類の異なる微笑だ。笑っている様で、笑っていない。

「勘違いしないでね、薙ちゃん?」

 そう言って、はんなりと微笑を刻む沙耶さんの瞳は、冷たく鋭かった。

「当主に相応しいかどうか…それを決めるのは我々よ。貴女じゃないわ。」

 投げられた鋭利な言葉に、ボクは息を飲む。
ビリビリと空気を震わす威圧感。凍り付きそうな気迫に、我知らず体が強張る。

 これが──四天。
一族最強の行者と云われる彼等の…これが、本来の姿なのか?

 怯むボクを嘲笑う様に、尚も沙耶さんは続ける。

「貴女は試される側にいるの。余計な詮索は無用よ。我等の当主は、我等が決める。それだけの事だわ、違う?」

「………」

 ボクが押し黙るのを見て、不意に沙耶さんが解けた。

「恐がらせちゃったわね…ご免なさい。今日はね。ただ貴女に会いたくて来ただけなの。その話は、いずれ近い内に…ね?」

 ボクは黙って頷くしかなかった。

一族の守護者・四天──。
その本領を垣間見た気がする…。