神妙な面持ちで様子を窺っていると…おっちゃんが、コホンとひとつ咳払いをしてボクに言った。

「薙、食事の前に紹介しておくよ。此方が現在、四天の一角を守っている…」

「鏑木沙耶さん。」

 おっちゃんの言葉を先んじたボクに、その場に居た全員が目を丸くした。

「まぁ──!早速、私の名前を覚えてくれたのね!?有難う。とても嬉しいわ、薙ちゃん?」

 沙耶さんが華やかに破顔する。

 ──眩しい。
なんて綺麗な人だろう?
それに、この噎せ返る様な色香…
まるで、大輪の牡丹が華開いた様だ。

 気圧されて、二の句が継げないボクを見て…沙耶さんは、ふくよかな朱唇をフワリと綻ばせた。

「──貴女とは、伸之さんのお葬式で会ったわね?私を覚えていて?」

「はい。その節は、丁寧なお悔やみを頂き、有難うございました。」

 ボクは形式的に頭を下げた。
いっそ慇懃無礼だったかも知れない。だが…そんな、あからさまな社交辞令にも、沙耶さんは満足そうに目を細めて微笑う。

「思った通りの利発な子ねぇ。お近付きになれて嬉しいわ。」

「恐れ入ります。」
「それに、とても可愛いし。」
「それは…どうも…」

 か…可愛いだなんて。
他人から言われたのは、生まれて初めてだ。
耳馴れない褒め言葉に、頭が混乱する。どう切り返せば良いか解らない。

…調子が…狂う。