重い足取りで辿り着いた母屋。
大広間には、既に人数分の膳と盃が並んでいた。
上座に近い方から、首座代理のおっちゃんと、一慶、苺が順に着座している。
向かい側の席には、祐介が座し──その隣に、妙齢の美しい女性と、若い男性が座ってボクを見ていた。
『お客様』って、あの人達だな。
女性の顔には、何となく見覚えがある。確か…親父の葬式に参列していた筈だ。
高い鼻梁と涼しげな目元。
ふくよかな唇の左下には、小さなホクロがある。ゆったり結い上げた豊かな栗色の髪が、白い額に一筋二筋と零れて──
匂やかなその麗姿に…ボクは、場所柄も弁(ワキマ)えず見蕩れてしまった。藍染めの麻の着物を、スッキリと着こなした艶っぽい美人。
あの人が沙耶さん。
そして、その隣が遥さん…?
彼が『実の息子』なのだとしたら、沙耶さんって一体、何歳(イクツ)なのだろう? とても若く見えるけれど…
チラと視線を移すと、沙耶さんの隣で、遥さんが華やかに破顔した。
母親譲りの栗色の髪。
男の人にしては僅かに小柄で顔も小さい。線が細くて童顔だけれど、多分ボクより年上だ。
二十五歳前後…だろうか?
左の目元に、小さな泣き黶(ホクロ)がひとつ。
ニコニコしていて、親しみ易い印象だ。
文句無しの美形である。
ボクは、《四天》という先入観だけで、勝手に悪い印象を抱いてしまった自分を反省した。もっと強面の、いかつい男性ばかりだと思っていたのに、こんなに綺麗な人もいるのか…
様々考えを巡らせながらボ~ッと突っ立っていると、不意に氷見が、小声で話し掛けてきた。
「薙さまは上座へ。」
「上座?」
「はい。皆様の中では、薙さまが最も血の濃い御方ですので。」
……血。
これが血族の掟。
純血に近い者程、優位に立てる六星特有の制度。血の濃さが、人の優劣を決める世界。
ボクは、言われた通りに上座に着いた。
成程。苺はこの為に、和服を用意したのか。
綺麗な着物を着せられて、一段高い場所から皆を見下ろすボクは、まるで雛人形だ。
何やら、気分が悪い。
大広間には、既に人数分の膳と盃が並んでいた。
上座に近い方から、首座代理のおっちゃんと、一慶、苺が順に着座している。
向かい側の席には、祐介が座し──その隣に、妙齢の美しい女性と、若い男性が座ってボクを見ていた。
『お客様』って、あの人達だな。
女性の顔には、何となく見覚えがある。確か…親父の葬式に参列していた筈だ。
高い鼻梁と涼しげな目元。
ふくよかな唇の左下には、小さなホクロがある。ゆったり結い上げた豊かな栗色の髪が、白い額に一筋二筋と零れて──
匂やかなその麗姿に…ボクは、場所柄も弁(ワキマ)えず見蕩れてしまった。藍染めの麻の着物を、スッキリと着こなした艶っぽい美人。
あの人が沙耶さん。
そして、その隣が遥さん…?
彼が『実の息子』なのだとしたら、沙耶さんって一体、何歳(イクツ)なのだろう? とても若く見えるけれど…
チラと視線を移すと、沙耶さんの隣で、遥さんが華やかに破顔した。
母親譲りの栗色の髪。
男の人にしては僅かに小柄で顔も小さい。線が細くて童顔だけれど、多分ボクより年上だ。
二十五歳前後…だろうか?
左の目元に、小さな泣き黶(ホクロ)がひとつ。
ニコニコしていて、親しみ易い印象だ。
文句無しの美形である。
ボクは、《四天》という先入観だけで、勝手に悪い印象を抱いてしまった自分を反省した。もっと強面の、いかつい男性ばかりだと思っていたのに、こんなに綺麗な人もいるのか…
様々考えを巡らせながらボ~ッと突っ立っていると、不意に氷見が、小声で話し掛けてきた。
「薙さまは上座へ。」
「上座?」
「はい。皆様の中では、薙さまが最も血の濃い御方ですので。」
……血。
これが血族の掟。
純血に近い者程、優位に立てる六星特有の制度。血の濃さが、人の優劣を決める世界。
ボクは、言われた通りに上座に着いた。
成程。苺はこの為に、和服を用意したのか。
綺麗な着物を着せられて、一段高い場所から皆を見下ろすボクは、まるで雛人形だ。
何やら、気分が悪い。