少し気分を害していると、彼女は、空気を読んだ様に笑いを納めて言った。

「ごめん。もしかして、怒っちゃった?? だってあなた、あからさまにアタシの顔色を伺っているんだもの。さっきの大真面目な顔──!思い出したら、また…」

 そう言って、ケタケタと笑い出す。

生まれて此の方、こんなにも他人に爆笑されたのは初めてだ。感謝の気持ちが、次第に苛立ちに変わっていくのを感じる。

 …それに。

謝意を示す態度として、『大真面目』という方向性は、決して間違いではないと思う。

かれこれ二十年弱も人間稼業をしている訳だが──真顔が可笑しいと笑われたのは、これが初めてだ。顔の造作の善し悪しを言われたのなら、まだしも…誠意を態度で示した者に対して、ちょっと失礼なのではないか?

「ごめんね。流石に『ちょっと失礼』だったかしら?? だけどアタシだって、ちゃちな揺すりと間違われたんだから、お互い様よね?」

「…う…」