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2度目の失恋
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12月23日(日)
毎週、金曜日はピアノ演奏のアルバイトをしている私も、今日と明日は臨時で駆り出されてしまった。
本来入るべきピアニストが、クリスマスのイベントがあり、入れないらしい。
ゆうくんは、明日、何を話すのかな?
いつまでも待つって言ってくれたけど、私は、どうすればいい?
私は、まだ、2度目の失恋の傷から、立ち直れないの?
もう大丈夫なつもりだったけど、一歩踏み出すのが、こんなに怖いなんて…。
・:*:・:・:・:*:・
奏 22歳 春。
私は、大学の情報処理学科を卒業し、東京の会社に就職した。
SEとして、3ヶ月の研修が始まる。
同期70名。
うち約30名がSEとしての採用だった。
研修と言っても、まだまだ学生気分が抜けない私たちは、仲良く飲みに行ったり、週末に遊びに行ったりした。
特に私のような地方出身者は、寮生活という事もあり、毎日が合宿のようで、とても楽しかった。
4月も間も無く終わろうという頃、私は同期の山本 博臣(やまもと ひろおみ)くんに飲みに誘われた。
山本くんは、ゆうくんよりも更に背が高く堀が深いイケメンだ。
本人曰く、187センチあるが、不便なだけで全く役に立っていないらしい。
私は同期みんなで飲みに行くものだと思っていたのに、待ち合わせ場所には、彼しかいなかった。
「あれ? みんなは?」
と聞くと、
「今日はみんな都合が悪いんだって。」
という返事が返ってきた。
だったら、別の日にすればいいのに。
と思いつつも、山本くんが飲みに行きたいというので、付き合う事にした。
お洒落なショットバーのようなところに連れていかれ、カクテルを何杯か飲んだが、山本くんはあまりアルコールに強い方ではなく、私より先に酔ってしまった。
駅まで山本くんを支えながら歩いていると、突然、山本くんの足が止まった。
「どうしたの? 具合悪い?」
私が見上げて尋ねると、急に山本くんの手が背中にまわった。
何?
私、抱きしめられてる?
それとも、具合が悪くてしがみついてるの?
わけが分からなくて、その場で固まっていると、ふと山本くんの手が弛んだ。
ほっとしたのも束の間、山本くんの手が後頭部にまわり、気づくと山本くんの唇が私のそれに重なっていた。
茫然自失。
何が起きているのか理解できずに立ち尽くす私。
通りすがりの酔っ払いに指笛を鳴らされ、はやし立てられて、初めて、公衆の面前で私のファーストキスが奪われた事に気付いた。
山本くんから逃れようと暴れてみたけど、彼の腕はビクともせず、されるがままだった。
どれ位の時間が経ったのだろう?
数秒だったのかもしれないし、1分以上あったのかもしれない。
ようやく私を解放してくれた山本くんは、呂律が回らない口で、
「たちばなさんが好きです。
付き合ってください。」
と言った。
私は、何も答えられず、そのまま走って改札を抜けると、電車に飛び乗って1人寮に帰宅した。
山本くんは、その後も何度も私に思いを告げてくれたが、私はその都度、断っていた。
「ごめんなさい。
ありがとう。
でも、何度、言われても、忘れられない人が
いるから…。」
入社して半年が過ぎた頃、また山本くんが寮の前で待っていた。
「橘さんは、誰も忘れなくていいから。
ずっとその人を思っていていいから。
ただ、俺のそばでその人を思う事は出来ない?
俺は橘さんが隣にいてくれたら、それだけで
十分だから。」
こういうのを ほだされと言うのだろうか?
「私、山本くんを傷つけてしまうかも
しれないよ?」
と言う私に、
「大丈夫。
俺は男だから、もし傷ついてもちゃんと自分で、
立ち上がれるから。」
と力強く言ってくれた。
だから、私は彼と付き合ってみる事にした。
彼は、私にはもったいない位いい人で、どんなに忙しくても、毎日電話をしてくれて、毎週デートに連れて行ってくれた。
私は、ゆうくんへの想いはそのままに、山本くんとの穏やかな幸せに包まれていった。
そして、23歳の夏、このまま彼と平穏で幸せな毎日を積み重ねておばあちゃんになっていくのもいいかもしれないと思えたから、山本くんの誕生日、初めて彼と結ばれた。
それから、2年半が過ぎた25歳のお正月、初詣での帰りに、私は彼から指輪を渡された。
「俺と結婚してください。」
「………はい。」
左手の薬指にキラキラ輝くダイヤの指輪をはめてもらうと、それだけで幸せな気持ちなれた。
「今度、カナのご両親に挨拶に行こう。」
「うん。」
その1ヶ月後の2月14日、私は手作りのチョコを用意して彼を待っていた。
約束をした会社近くのカフェでミルクティーを飲んで待っていると、彼が来た。
「遅かったね。仕事忙しかったの?」
無言だった彼に、私からチョコを渡すと、彼は、
「いらない。
………別れてくれないか?」
と言った。
初め、何を言われているのかよく分からなかった。
「何で?
私、何か気に触るような事した?」
「カナじゃダメなんだ。
他に好きな人ができた。」
涙が溢れる私に、彼は触れることすらせず、
「指輪、返してくれる?」
と追い討ちのように言った。
私は、もう何の抵抗もできず、無言で薬指から指輪を抜き取ると、彼の前の机の上に置いた。
彼は、その指輪を受け取ると、
「カナ、今までありがとう。幸せになって。」
そう言い残して、コーヒーも飲まずに出ていった。
26歳の誕生日、私は2度目の失恋をした。
3週間後の3月初旬、彼が胃潰瘍で入院したという噂を聞いたが、私は見舞いに行く事もなく、彼が欠勤している中、3月末日で会社を辞めた。
・:*:・:・:・:*:・
どんなに想っても、どんなに想われても、いつか気持ちは変わってしまう。
ゆうくんの気持ちもいつか私から離れていくのかな?
今、目の前にゆうくんがいる。
いつもの《 Reserve 》席。
気持ちを押し殺して、ピアノを弾く。
幸せな思いが、いつまでも続きますように。
2度目の失恋
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12月23日(日)
毎週、金曜日はピアノ演奏のアルバイトをしている私も、今日と明日は臨時で駆り出されてしまった。
本来入るべきピアニストが、クリスマスのイベントがあり、入れないらしい。
ゆうくんは、明日、何を話すのかな?
いつまでも待つって言ってくれたけど、私は、どうすればいい?
私は、まだ、2度目の失恋の傷から、立ち直れないの?
もう大丈夫なつもりだったけど、一歩踏み出すのが、こんなに怖いなんて…。
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奏 22歳 春。
私は、大学の情報処理学科を卒業し、東京の会社に就職した。
SEとして、3ヶ月の研修が始まる。
同期70名。
うち約30名がSEとしての採用だった。
研修と言っても、まだまだ学生気分が抜けない私たちは、仲良く飲みに行ったり、週末に遊びに行ったりした。
特に私のような地方出身者は、寮生活という事もあり、毎日が合宿のようで、とても楽しかった。
4月も間も無く終わろうという頃、私は同期の山本 博臣(やまもと ひろおみ)くんに飲みに誘われた。
山本くんは、ゆうくんよりも更に背が高く堀が深いイケメンだ。
本人曰く、187センチあるが、不便なだけで全く役に立っていないらしい。
私は同期みんなで飲みに行くものだと思っていたのに、待ち合わせ場所には、彼しかいなかった。
「あれ? みんなは?」
と聞くと、
「今日はみんな都合が悪いんだって。」
という返事が返ってきた。
だったら、別の日にすればいいのに。
と思いつつも、山本くんが飲みに行きたいというので、付き合う事にした。
お洒落なショットバーのようなところに連れていかれ、カクテルを何杯か飲んだが、山本くんはあまりアルコールに強い方ではなく、私より先に酔ってしまった。
駅まで山本くんを支えながら歩いていると、突然、山本くんの足が止まった。
「どうしたの? 具合悪い?」
私が見上げて尋ねると、急に山本くんの手が背中にまわった。
何?
私、抱きしめられてる?
それとも、具合が悪くてしがみついてるの?
わけが分からなくて、その場で固まっていると、ふと山本くんの手が弛んだ。
ほっとしたのも束の間、山本くんの手が後頭部にまわり、気づくと山本くんの唇が私のそれに重なっていた。
茫然自失。
何が起きているのか理解できずに立ち尽くす私。
通りすがりの酔っ払いに指笛を鳴らされ、はやし立てられて、初めて、公衆の面前で私のファーストキスが奪われた事に気付いた。
山本くんから逃れようと暴れてみたけど、彼の腕はビクともせず、されるがままだった。
どれ位の時間が経ったのだろう?
数秒だったのかもしれないし、1分以上あったのかもしれない。
ようやく私を解放してくれた山本くんは、呂律が回らない口で、
「たちばなさんが好きです。
付き合ってください。」
と言った。
私は、何も答えられず、そのまま走って改札を抜けると、電車に飛び乗って1人寮に帰宅した。
山本くんは、その後も何度も私に思いを告げてくれたが、私はその都度、断っていた。
「ごめんなさい。
ありがとう。
でも、何度、言われても、忘れられない人が
いるから…。」
入社して半年が過ぎた頃、また山本くんが寮の前で待っていた。
「橘さんは、誰も忘れなくていいから。
ずっとその人を思っていていいから。
ただ、俺のそばでその人を思う事は出来ない?
俺は橘さんが隣にいてくれたら、それだけで
十分だから。」
こういうのを ほだされと言うのだろうか?
「私、山本くんを傷つけてしまうかも
しれないよ?」
と言う私に、
「大丈夫。
俺は男だから、もし傷ついてもちゃんと自分で、
立ち上がれるから。」
と力強く言ってくれた。
だから、私は彼と付き合ってみる事にした。
彼は、私にはもったいない位いい人で、どんなに忙しくても、毎日電話をしてくれて、毎週デートに連れて行ってくれた。
私は、ゆうくんへの想いはそのままに、山本くんとの穏やかな幸せに包まれていった。
そして、23歳の夏、このまま彼と平穏で幸せな毎日を積み重ねておばあちゃんになっていくのもいいかもしれないと思えたから、山本くんの誕生日、初めて彼と結ばれた。
それから、2年半が過ぎた25歳のお正月、初詣での帰りに、私は彼から指輪を渡された。
「俺と結婚してください。」
「………はい。」
左手の薬指にキラキラ輝くダイヤの指輪をはめてもらうと、それだけで幸せな気持ちなれた。
「今度、カナのご両親に挨拶に行こう。」
「うん。」
その1ヶ月後の2月14日、私は手作りのチョコを用意して彼を待っていた。
約束をした会社近くのカフェでミルクティーを飲んで待っていると、彼が来た。
「遅かったね。仕事忙しかったの?」
無言だった彼に、私からチョコを渡すと、彼は、
「いらない。
………別れてくれないか?」
と言った。
初め、何を言われているのかよく分からなかった。
「何で?
私、何か気に触るような事した?」
「カナじゃダメなんだ。
他に好きな人ができた。」
涙が溢れる私に、彼は触れることすらせず、
「指輪、返してくれる?」
と追い討ちのように言った。
私は、もう何の抵抗もできず、無言で薬指から指輪を抜き取ると、彼の前の机の上に置いた。
彼は、その指輪を受け取ると、
「カナ、今までありがとう。幸せになって。」
そう言い残して、コーヒーも飲まずに出ていった。
26歳の誕生日、私は2度目の失恋をした。
3週間後の3月初旬、彼が胃潰瘍で入院したという噂を聞いたが、私は見舞いに行く事もなく、彼が欠勤している中、3月末日で会社を辞めた。
・:*:・:・:・:*:・
どんなに想っても、どんなに想われても、いつか気持ちは変わってしまう。
ゆうくんの気持ちもいつか私から離れていくのかな?
今、目の前にゆうくんがいる。
いつもの《 Reserve 》席。
気持ちを押し殺して、ピアノを弾く。
幸せな思いが、いつまでも続きますように。