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手料理を…

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12月21日(金)

今日も20時からピアノバーでの演奏がある。

今日はクリスマスカラーにちなんでモスグリーンのAラインのロングドレス。

サイドを編み込んでストレートヘアのままハーフアップにした。

ピアノの右側のテーブルには、今日も《 Reserve 》のプレートが置いてある。

きっと、ゆうくん。


先週のゆうくんの告白から、まだ一度もゆうくんに会っていない。

返事もしていない。


私は、何を迷っているの?

恭子の事?

気にならないわけじゃない。

でもそれ以上に、応えて、期待して、裏切られるのが、………怖い。

1年前、あんな終わり方をしたから…


19時55分。
ゆうくんがあの席に着いた。

20時。
演奏開始。

ゆうくんに見守られながら弾くピアノは、やはり心地いい。

21時。
大きな拍手をいただき、演奏を終える。


22時。
再び演奏開始。

楽しく。

ポップに。

しっとりと。

各曲に情感を乗せて、思いを込めて、演奏する。

最後は、『愛の夢』

ゆうくんに言葉ではまだ伝えられない私からの愛の告白。

どうか、この想いが伝わりますように。




演奏後、私は着替えてゆうくんの隣に座った。

「何か飲む?」

ゆうくんが尋ねてくれるけど、私は無言のまま首を横に振った。

「じゃあ、帰ろ?」

立ち上がったゆうくんに続いて私も立ち上がる。


控え室から荷物を取ってくると、ゆうくんの左手が伸びて来て、荷物を持ってくれた。

ゆうくんの右手が私の肩を抱いて、歩き出した。

っ!?
肩っ!!

でも……
このまま、こうしていたい。


ゆうくんの温もりが心地よくて、私はそのまま寄り添って歩いていた。


「………

最後の『愛の夢』…

良かったよ。

ありがとう。」


私の想い、伝わったのかな?



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12月22日(土)

私からゆうくんにメッセージを送った。

『こんにちは(^◇^)
晩ご飯、作るけど、一緒に食べる?』

『行く!』


ふふっ。
返信が早い。


『じゃあ、18時頃、来てね』

私が送信ボタンを押すと同時に玄関のチャイムが鳴った。


─── ピンポーン ♪


は!?

分かってはいたが、モニターを確認すると、そこにはやはり、ゆうくんの姿。

私は、玄関を開ける。

そこには、にこにこ満面の笑みをたたえるゆうくん。

「早い!!」

私が怒って言うと、

「いいじゃん。
会いたかったし。」

と、全く悪びれた様子はない。

「お邪魔しまーす。」

私の横をすり抜けて、私より先に部屋に上がる。

私が慌てて戻ると、

「今日の晩ご飯、何?」

ご機嫌のゆうくんは、しっぽをパタパタ振って懐いてくる仔犬みたい。

仔犬にしては、かなり大きいけど。






「ハンバーグにしようと思うんだけど、いい?」

「っ!!
いいっ! 大好物!
嬉しい〜!!」

「ふふっ。」

目をキラキラさせて喜ぶゆうくんを見て、思わず、

かわいい

と思ってしまった。


材料を冷蔵庫から取り出して、料理を始めようとすると、

「手伝うよ。」

とゆうくんがキッチンに入ってきた。

「じゃあ、サラダお願いしていい?」

とレタスを指差すと、

「おっけー。」

と流水で洗い始めた。

玉ねぎが苦手な私は、いつものように目を閉じて玉ねぎを刻む…けど、それでも目にしみて涙が止まらない。

「奏!」

ゆうくんの大きな声に驚いて手を止めると、後ろからそっと包丁を取り上げられた。

「危ない。何やってんの?」

静かで低い声がゆうくんの怒りを表しているようで、怖かった。

「大丈夫だよ。私、玉ねぎはいつも目を瞑って
切ってるから。
無駄に目が大きいから、余計にしみるのかなぁ。」

と笑って見せた。

「ダメ。
玉ねぎは俺が切る。」

「えぇ〜!?
ほんとに大丈夫だから。」

「絶対、ダメ!」

ゆうくんは全く包丁を返してくれない。

はぁ………
仕方ない。

「ゆうくん、玉ねぎ、お願いします。」

「はい。」

もういつもの優しいゆうくんだ。




1時間後、私の手料理ではなく、2人の共同作業の夕食が完成した。

ゆうくんは、

「おいしい。」

と言って、60分かけた料理を10分で平らげてしまった。





食後、まだ食べてる私を眺めながら、ゆうくんが言った。

「奏、明日と明後日もピアノ弾くんだろ?」

「何で知ってるの?」

「店の入り口にピアニストのスケジュールが
あった。」

ああ、案内のチラシについてるヤツかぁ。

「24日、演奏の後、少し飲めない?」

「23時過ぎになるよ? 次の日仕事だけど、
大丈夫?」

「俺は大丈夫だけど、奏は?」

「私は平気。
始業時刻が9時半からだから、9時過ぎに家を
出ても間に合うもん。」

「じゃあ、そうしよ?」

「うん。」



「じゃ、今日は、ごちそう様。
奏、ありがと。」

20時過ぎ、ゆうくんは爽やかに帰っていった。