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孫悟空?

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12月15日(土)


17時。

ピンポーン♪

玄関のインターホンが鳴った。

モニターを見ると…

やっぱり、ゆうくん。


どうしよう?

会いたい。

嬉しい。

でも…

また、スッピン…




ガチャ

諦めて、玄関のドアを開ける。

「こんにちは。」

そこには、にっこり微笑んだゆうくん。


好き…。

心の声が漏れないように、一生懸命、普段通りの表情を作る。

「こんにちは。」

「晩飯、行かない?」

「行かない。」

「なんで?」

「この後、デートだから。」

その瞬間、ゆうくんが固まった。

「はぁっ!?
誰と!?
この間、彼氏いないっつったじゃん!」

ゆうくんの声が大きくなる。

「ふふっ。
彼氏はいないよ。
今日は葵(あおい)ちゃんとデートなの。」

「っ!?
あおい…ちゃん…って、おふくろ!?
何で!?」

「引っ越し祝い&就職祝い?
葵ちゃんは、私の第2の母だから?
ふふふっ。」

目を白黒させて驚くゆうくんが、かわいい。



子供の頃、母と親友になった ゆうくんのお母さん『葵ちゃん』は、私をとても可愛がってくれる。

葵ちゃんは、女の子がどうしても欲しかったけど、3人続けて男の子だった結果、諦めたらしい。

だから、私を子供の頃から本当の娘のようにかわいがってくれて、今でもよく食事やお買い物に誘ってくれる。

私がまだ小さい頃から、葵ちゃんは、
「私は奏ちゃんの第2の母だからね。」
と公言してはばからない。




「そろそろ支度を始めるから、また今度ね。」

そう言って、ドアを閉めようとすると、

「ちょっと待て!」

と言って、ゆうくんは携帯を取り出した。

携帯を操作すると、耳に当てて電話をかける。

「もしもし? 母さん?
母さん、今日、奏とデートってほんと?

………………

でも、ごめん、それ、キャンセルで。

………………

何でって、俺がこれから奏とデートするから。」


っ!! 何!?


「ちょっ!
ゆうくん!!
何、言ってんの!?」

「じゃ、そういう事で。

………………

ふーん、分かった。じゃね。」

ゆうくんは、あっさり電話を切ってしまった。



「何、勝手に断ってんのよ!」

私が抗議すると、

「いいじゃん。
おふくろとは、また今度行けば。

ってか、何で俺が知らない奏の連絡先を
あの人が知ってるわけ!?」

「第2の母だから?」

むくれる ゆうくんが、かわいくて仕方ない。

思わず、顔が笑ってしまう。


すると、私の携帯が短く鳴った。

通信アプリにメッセージが届いている。


『奏ちゃん、ごめんね〜。
優音にいじめられたら、すぐに言ってね。
私がお説教してあげるから(*´艸`*)ァハ♪
また今度、優音に内緒で行こうね♡』


「ぷっ!
葵ちゃんらしい〜。」

すると、ゆうくんが私の携帯を取り上げた。

メッセージを見て、なぜか私を睨む。

「はぁぁぁぁ…。
俺が奏をいじめた事なんて、一度もない
だろ…」

そして、素早く私の携帯を操作して、自分の携帯を鳴らす。

「あぁっ!!
何やってんの!?」

「奏の連絡先ゲット♡」

ゆうくんは、いたずらっ子のような顔をして、とても満足気だ。

「ンもうっ!
そんな事しなくても、聞けばちゃんと教えて
あげるのに。」

「じゃ、晩飯行こ?」


「…ヤダ。」

「っ!!
何で!?」

「スッピンだから!」

「ぷっ!
奏はスッピンでもかわいいって言ってる
じゃん。
気にしなくていいのに。」

はぁっ!?

ゆうくん、昔はこんな事言う人じゃなかったのに。

何で?

「私が気になるの!」

「じゃあ、待ってる。
化粧していいよ。」

「言われなくても、するわよ。
ってか、また、ここで待つ気?」

「うん。
適当にくつろいでるから、気にしないで
のんびり支度していいよ〜。」

………

はぁぁぁぁ……。

私は、何でこんなのが好きなの!?





「お待たせ。」

化粧をして、ひとつに結んでいた髪を下ろして、ハーフアップにしてみた。

「うん。奏、綺麗。」

「あ、ありがと。」

「行こ。」

戸締まりをすると、ゆうくんは、また私の手を取ってエレベーターへと連れて行く。

エレベーターに乗ると、今度は指を絡めてきた。

えっ!?

恋人繋ぎ!?



駐車場から、車を走らせる事10分。

静かで落ち着いた1軒の日本家屋に着いた。




ゆうくんに手を引かれて、玄関を入る。

「田崎です。」

ゆうくんが名乗ると、

「お待ち申し上げておりました。
こちらへどうぞ。」

と案内される。


私は、ゆうくんに習って用意されたスリッパに履き替えて、仲居さんらしき女性についていった。



通されたのは、8畳程の和室。

真ん中に黒檀の座卓があり、座布団が用意されていた。


「くつろいでお待ちくださいませ。」
と仲居さんが襖を閉める。



ゆうくんが手を離してくれないから、座れない。

「んんーー! 隣が良かったけど、向かい
合わせで用意されちゃってるから、
しょうがないか。」

ゆうくんは、諦めて、手を離して向かい側に座った。



「ここ、外から見ると普通の家みたい
だったね。」

キョロキョロしながら、私が聞くと、

「あぁ、隠れ家みたいで落ち着いてていい
だろ?」

とゆうくんが答える。

「ゆうくん、予約してくれてたの?」

「違うよ。
ここは、おふくろが予約してたんだ。
さっき、電話で、キャンセルが面倒だから、
奏と行ってこいって言ってた。」

と笑った。






「奏、酒飲む?」

ゆうくんに聞かれて、

「んー、いらないかな?
ゆうくん、飲みたいなら、飲んでいいよ。」

と答えると、

「俺も今日はいいかな?
車だし、今飲んだら、うっかり奏を
襲っちゃいそうだし?」

と笑った。

はぁっ!!
何、それ!?

この展開、付いていけないんですけど!?



「それより、奏、いつからおふくろと連絡
取り合ってんの?」

「こっち戻ってきてすぐの頃かな?
私が引きこもってたら、お母さんのとこに
遊びに来た葵ちゃんがいろいろ相談に乗って
くれて…。
今の会社も葵ちゃんが紹介してくれたんだよ。」

「奏、引きこもってたの?
何で?」

「いや、大した事じゃないよ。
いろいろあって、あんまり外に出たくなくて、
家でぐだぐだしてただけだから。」


すると、ゆうくんは突然思い当たったような顔をした。

「っ!!
もしかして、マンションもおふくろの紹介?」

「うん。オーナーさんに直接交渉してくれて、
家賃も少し安くしてもらえたんだよ。
葵ちゃんには、感謝してもしきれないよ。」

頭を抱えたゆうくんは、ボソボソと呟いた。

「はぁぁぁぁ…。
俺は孫悟空か?
いつまであの人の手の中で踊らされれば気が
済むんだ?」

「えっ? 孫悟空?
何それ?」

「あぁ、奏は分かんなくていいから。」

「は?」

「さ、食べようぜ!」

そう言うと、ゆうくんは、とってもおいしいお料理をぱくぱくと食べ始め、私もつられてお腹いっぱい食べたのだった。