・:*:・:・:・:*:・:・:・:*:・

挨拶

・:*:・:・:・:*:・:・:・:*:・


─── 1月2日(水) ───

俺は突然思い立って奏にメッセージを送った。

『明日、おじさんとおばさん、家にいる?
迎えに行った時、きちんと挨拶したいん
だけど…。』

ところが奏は、

『いいよ、わざわざ。
うちの両親もゆうくんの事はよく知ってるし。』

とあまり乗り気ではない。

だけど、家族ぐるみの付き合いがあるからこそ、いい加減な事はしたくない。

だから、俺は、

『俺はコソコソ付き合うのは、嫌なの。
明日、挨拶するから、何時が都合がいいか
聞いといて。』

と強気で押し切った。

初めは渋っていた奏も、ちゃんと聞いてくれたらしく、10時半と時刻を知らせて来た。


─── 1月3日 木曜日 ───

10時半。

ピンポーン ♪

玄関のチャイムを鳴らすと、おばさんが顔を出した。

「あら、ゆうくん、いらっしゃい。」

「明けましておめでとうございます。
本日は家族水入らずでお過ごしの所へお邪魔
して、申し訳ありません。」

俺は出来る限り丁寧に挨拶した。

「どうぞ、上がって。」

おばさんはいつも通りにこやかに迎えてくれた。

「お邪魔します。」

と玄関に来た奏を見た。


リビングに通された俺は、おじさんの体面(といめん)にあるソファの前に立った。

「皆さまのお口に合うかどうか分かりません
が、奏さんの好きな水無月堂の苺大福です。
よろしければ、お召し上がりください。」

と、菓子折りをローテーブルの上に置いた。

おじさんは一言も喋らない。
すると、おばさんが口を開いた。

「まあまあ、わざわざありがとう。
せっかくだから、みんなで今いただき
ましょうね。」

おばさんが菓子折りを持って、キッチンへ行くと、おじさんがようやく、

「まあ、掛けなさい。」

と声を掛けてくれたので、

「はい。失礼します。」

とソファに腰掛けた。


何とも言えない緊張した空気が張り詰める中、律(りつ)が2階から下りて来た。

「ゆうにぃ、久しぶり〜。」

にこにこ笑う律は、幼い頃のままだ。
緊張していた俺も、律の明るい笑顔を見て、落ち着く事が出来た。

「律、久しぶり。結婚するんだって?
おめでとう。」

「うん、ありがとう。
ゆうにぃは?
もしかして、ねぇちゃんと付き合ってんの?」

……律が地雷を踏んだ。

お茶と苺大福を持ってきたおばさんが、

「律! 何ですか! 藪から棒に!
とりあえず、お茶でも飲んで、ゆっくりして
いってね。」

と地雷を処理してくれようとした。



だけど、今日の本題はそれだ。
避けては通れない。

「はい。ありがとうございます。
でも、今日は、律くんがおっしゃった件で、
ご挨拶に伺ったので、話(はな)させて
いただいてもいいですか?

今日は、奏さんとお付き合いをさせて
いただきたく、ご挨拶に伺いました。
もちろん、将来を見据えて、真剣な
お付き合いをさせていただくつもりですし、
奏さんを幸せにしていきたいと考えています。」

俺は、目をそらす事なく、おじさんを見た。

するとおじさんが、ようやく、口を開いてくれた。

「奏は、私の宝物だ。
壊れ物なので、大切にしてやってください。」

「はい。必ず大切にします。」

そう約束して俺は、奏を見て微笑んだ。


「あーぁ、ゆうにぃ、かっけぇなぁ。
オレ、涼(すず)んちで、そんな堂々と挨拶
できなかったよ。
まぁ、デキ婚で向こうの親が激怒してたのも
あるけど…。」

おいおい、律、そんなんで結婚して大丈夫か?

「ねぇちゃん、大丈夫?
ゆうにぃ、めっちゃモテるんだよ。
捨てられて泣くなよ?」

律!! お前、地雷、踏みまくり!

「律!!
そんな事、あんたに言われなくても
知ってるわよ!」

奏が怒るので、俺がなだめに入る。

「律、大丈夫だよ。
俺には、奏しかいないんだから。
それより、律はしらないだろ?
奏は俺なんかより、ずっとモテるんだぞ。
捨てられたらどうしようって、毎日ドキドキ
してるのは、俺の方だ。」

フォローしたつもりだが、正直過ぎたか?

「ねぇちゃん、顔、真っ赤だぞ。」

律に言われて、奏は慌てて両手を頬に当てて隠した。

そんな奏もかわいい〜。

「ふふふ。
奏、良かったわね。
こんなに愛されて。」

おばさんに言われて、奏はますます顔を赤くした。


おばさんは、昼食に誘ってくれたが、丁重にお断りをして、俺たちはマンションに戻った。



スーパーで買い物をして、俺の部屋で昼食にサンドイッチを作った。

奏がフライパンにバターを溶かしてパンを焼き、俺が焼きあがったパンに具材を挟んでいく。

「おいしい!」

「ふふっ。」

こんがり焼けたパンが、なんとも言えない香ばしさを出して、とてもおいしい。

奏が、何か言いたそうに見ている。

「何?」

「何でもない。」

何だ?
でも、奏が笑ってるから、ま、いっか。


食後にお茶を入れた。

俺がコーヒーで奏がミルクティー。

ソファに並んで座って、まったりとくつろぎながら飲む。

コーヒーを飲み終わった俺は、奏の手からティーカップを取り上げて、ローテーブルに置いた。

「ん? 何?」

と奏は不思議そうな顔をしたが、俺はお構いなく、ゆっくりと口づけた。

キスはミルクティーの香りがした。

「奏、いい? もう限界。奏が欲しい。」

と耳元で囁く。

「えっ!? でも、まだ昼間…。」

奏は戸惑って狼狽えるが

「ダメ。 夜まで待てない。」

俺は、奏の返事を待たず、膝裏に腕を入れて抱き上げた。

奏をお姫様だっこで寝室へと運び、ベッドにそっと横たえた。

俺が上から覗き込むと、恥ずかしそうに顔を背ける。手を添えて顔を元に戻すと、再び口づけた。

「大切に抱くから。」

そう囁いて、俺は奏の体中にキスの雨を降らせた。

そして、日が暮れるまで、俺の深くて熱い想いを奏の全身に伝えた。


夜8時半

奏の隣で目覚めた俺は、暗闇の中、奏の寝顔を眺めていた。

やっと!
奏が俺の腕の中にいる。
今、この瞬間、世界一幸せなのは俺だろう。

俺は、しばらく奏を眺めていたが、先にシャワーを浴びて、遅くなった夕飯を作ってやる事にした。

ベッドをそっと抜け出し、シャワーを浴びる。

髪を拭きながら、奏の顔を見に戻ったら、奏も目が覚めたようだった。


「奏、起きた?」

「ゆうくん…。今、何時?」

「9時過ぎだよ。シャワー浴びる?」

「うん。」

奏は起きようとして、自分が一糸纏わぬ姿である事に気付き、慌てて布団の中に潜り直した。

「ははっ。今更隠さなくても…。」

奏は無言で俺を睨む。
そんな姿がかわいくて、俺はゆっくり近づいて、そっと口づけた。

「気になるなら、俺は向こうにいるから、
着替えて出ておいで。」

そう言って、部屋の灯りをつけて、キッチンへと移動した。

しばらくすると、服を着た奏が寝室から出てきた。

「簡単に夕飯作っとくから、シャワー浴びて
おいで。」

「うん。」

奏はシャワーを浴びて、長い髪を拭きながらリビングに戻ってきた。

「あ、ドライヤー出してなかったね。」

俺はドライヤーを持ってきて、ダイニングの椅子を部屋の真ん中に置いた。

「座って。」

奏がそこに座ると、俺はドライヤーで髪を乾かしてやる。


ふっ…
俺は今、お姫様の髪に触ってるんだな。

幼い頃の事を思い出して、笑みがこぼれる。


「ご飯食べよ。」

髪が乾いた後、ドライヤーを片付けながら言った。

「うん。」


俺が作ったポークソテーをおいしそうに食べる姿がかわいくて、我慢できなくなった俺は、食後、また奏をベッドルームへと拉致してしまった。