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クリスマス

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─── 12月21日(金) ───

仕事を早めに終わらせて、今日もピアノバーへ行く。

今日の奏は、グリーンのドレス。

ロングドレスだが、肩から鎖骨にかけての露出が妙に色気を感じる。

他の男に見せたくないと思うのは、俺のわがままだろうか。



ラストの『愛の夢』

胸がいっぱいになる。

奏、俺、自惚れてもいいのか?

俺だけに向けられた演奏だと信じたい。


演奏後、着替えた奏が隣に座った。

「何か飲む?」

と尋ねるが、奏は無言のまま首を横に振った。

「じゃあ、帰ろ?」

と促して、立ち上がる。


俺は、奏の荷物を持ち、奏の肩を抱く。

この間まで、手を繋いだだけで焦っていた奏が、されるがままに寄り添って歩く。

奏の中で、何かが変わった?


「………

最後の『愛の夢』

………良かったよ。

………ありがとう。」


自惚れかもしれないけど、俺はそう伝えたかったんだ。



─── 12月22日(土) ───

奏からメールが来た。

『こんにちは(^◇^)
晩ご飯、作るけど、一緒に食べる?』

『行く!』


即座に返信して、部屋を飛び出す。
奏から初めてのお誘い。


ピンポーン ♪

チャイムを鳴らすと同時にメールが来た。

『じゃあ、18時頃、来てね』

もう遅い。

奏が、玄関を開けてくれた。

「早い!」

奏はちょっと怒っていた。

「いいじゃん。会いたかったし。
お邪魔しまーす。」

部屋に上がって、奏に聞いた。

「今日の晩ご飯、何?」

奏の手料理。

嬉しくて仕方ない。




「ハンバーグにしようと思うんだけど、いい?」

「っ!! いいっ!
大好物!」

「ふふっ」

奏も俺の好きなもの、知ってたんだ。


「手伝うよ。」

そう言って、俺はキッチンに入った。

「じゃあ、サラダお願いしていい?」

と奏はレタスを指差した。

「おっけー。」

俺がレタスを洗ってると、奏は目を閉じて玉ねぎをみじん切りにしていた。

「奏!」

手を止めた奏の後ろに回り、そっと包丁を取り上げた。

「危ない。何やってんの?」

と叱ると、

「大丈夫だよ。私、玉ねぎはいつも目を瞑って
切ってるから。
無駄に目が大きいから、余計にしみるの
かなぁ。」

と言って笑う。

「ダメ。玉ねぎは俺が切る。」

「えぇ〜!?
ほんとに大丈夫だから。」

「絶対、ダメ。」

奏はなおも自分でやろうとしたが、俺はやらせたくなかった。


「ゆうくん、玉ねぎ、お願いします。」

「はい。」

こういう素直なところもかわいいなぁ。


1時間後、奏のハンバーグが完成した。

「おいしい。」

あまりの美味しさに、あっという間に食べ終わってしまった。


「奏、明日と明後日もピアノ弾くんだろ?」

「何で知ってるの?」

奏は驚いていた。

「店の入り口にピアニストのスケジュールが
あった。」

と言うと、奏は納得したように笑った。

「24日、演奏の後、少し飲めない?」

俺はクリスマスを少しでも奏と一緒に過ごしたかった。

「23時過ぎになるよ?
次の日仕事だけど、大丈夫?」

「俺は大丈夫だけど、奏は?」

「私は平気。
始業時刻が9時半からだから、9時過ぎに家を
出ても間に合うもん。」

「じゃあ、そうしよ?」

「うん。」

最近、奏との距離が近づいてる気がする。


「じゃ、今日は、ごちそう様。
奏、ありがと。」

お礼を言って、8時過ぎに帰宅した。


─── 12月24日(月) ───

演奏を終えた中休み、奏はドレスから白いワンピースに着替えて、少しだけ俺の隣に座る。


「来てくれて、ありがと。」

奏が微笑んで言う。

そういえば、俺が初めて奏と出会った時も白いワンピースだったな。

あの時は、奏の事、お姫様だと信じてたっけ。

「今日の奏、一段と綺麗だな。」

「っ!!」

奏は、口をパクパクさせて、焦ってる。

かわいい〜。

俺の永遠のお姫様だな。


23時過ぎ

「お待たせ。」

と再びワンピースに着替えた奏が、戻ってきた。

「うん。
何飲む?」

と聞くと、

「ん〜、じゃあ、モスコミュール。」

と言うので、2人分オーダーする。

カクテルが届いて、乾杯する。


「奏。」

俺は、ジャケットの内ポケットから、プレゼントを取り出した。

「クリスマスプレゼント。
もらって。」

と言うと、焦った奏が頭を下げる。

「ごめん。
私、何がいいか分からなくて、プレゼント
用意してないの。
ほんとにごめん。」

「そんなの気にしてないから、いいよ。
それより、開けてみて。」

「うん。ありがと。」

奏はそっとシルバーのラッピングを開いた。

中からは、真っ白いベルベットの箱。

箱をそっと開けて、ト音記号のネックレスを見ると、

「かわいい〜♡
すっごく嬉しい!!」

と弾んだ声を上げる。

「でも、これ、もしかして、ダイヤじゃない?
こんな高価な物、もらえないよ。」

と冷静になって返そうとするので、焦った。

「返されても困るから、もらって。
俺がこんなのぶら下げてたら、変だろ?」

と言って、笑ったら、奏も笑った。

「じゃあ、お言葉に甘えて。
ほんとにありがとね。」

よかった。もらってくれた。

「ねえ、今、着けてみていい?」

とかわいい事を言う。

「あぁ。
着けてやるよ。」

俺は、ネックレスを取り、奏の後ろに立った。

「はい。」

ネックレスが胸元をキラキラと華やかにした。

「ゆうくんは、何が欲しい?
今度、一緒に買いに行こ。」

と言われたが、

「ん、欲しいものは買えないから。」

と答えた。

俺の欲しいものに気付いたのか、奏は一人で真っ赤になって俯いてしまった。

やっぱり奏は、かわいい。


「奏、どうした?」

理由は分かる気がしたが、あえて聞いてみた。

「何でもないよ。」

恥ずかしそうにする奏。
そのまま抱きしめてしまいたい。

「ゆうくん、あのね、今度、聞いて欲しい事が
あるの。」

「ん? 何?」

「今日は遅いし、また今度でいいから。」

「??? よく分かんないけど、分かった。」

何だろう?
いい事?
悪い事?


「じゃあ、初詣で行こうよ。」

分からないけど、誘ってみた。

「うん! 行きたい!」

「いっそ、一緒に年越しする?
晩飯食べて、テレビの年末特番見ながら
ちょっと飲んで、年が明けたら深夜に初詣で。」

「いいよ。楽しみ。」

この反応、悪い事ではなさそうな気がする。


グラスが空になったので

「そろそろ帰ろうか?」

と声を掛けた。


俺は、奏のドレスを持ち、反対の手で奏の腰を抱いた。

一瞬で奏の顔が真っ赤になる。


だけど…。

奏は嫌がる事なく、俺に腰を抱かれて家まで帰った。