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優音の想い…
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. 出会い
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こんな事を言うと、絶対馬鹿にされるし、引かれるに決まってるから、誰にも言った事はないんだけど、俺は5歳の時、お姫様にあったんだ。
─── 5歳 春 ───
俺は、5歳の時、母の勧めで、バイオリン教室に通う事になった。
その頃の俺は、鬼ごっこやサッカーなど、外で遊ぶ方が好きだったから、バイオリンなんて全然やりたくなかったんだけど、ほんとは女の子が欲しかった母は、どうしても音楽を習わせたかったらしく、無理矢理、バイオリンをさせられる事になってしまった。
散々渋る俺だったが、母の
「がんばったら、帰りにアイス買おうね。」
と言う買収にいとも簡単に懐柔されてしまった。
意志薄弱な俺。
渋々、バイオリンのレッスンを受けて、帰ろうとレッスン室のドアを開けると、たまたま隣のレッスン室のドアも開いていた。
そこには、同い年くらいの女の子が廊下に背を向けて立っていた。
「ありがとうございました。」
かわいい声と共にお辞儀をするその子の背には、腰まで届くサラサラの長い髪があった。
お辞儀と共に、さらりと前に流れ落ちるその髪がとても綺麗で驚いた。
そんなに長い髪の子を見たのも初めてで、俺は思わず、目を奪われていた。
俺が見とれていると、女の子はくるりと向き直って廊下に出ようとしたので、俺と思いっきり目が合ってしまった。
お姫様がいる!
それが俺が彼女に抱いた第一印象だ。
色白で、とても大きな目をした彼女は、白くてふわりと広がるワンピースを身にまとい、その姿は、母に無理矢理、読み聞かせられる童話のお姫様そのものだった。
当時、俺は、お姫様に出会いたいとも思わないし、王子様になりたいとも思わない、どちらかと言えば、悪をやっつける特撮ヒーローに憧れる普通の男子だったはずなのに…。
彼女は、俺と目が合った瞬間、目を伏せて駆け出した。
えっ!?
一瞬で嫌われた?
俺は、めちゃくちゃ落ち込んだ。
分かり易く どよ〜んとした空気をまとって、ロビーで待つ母の元へ戻ると、母の隣に見知らぬおばさんがいた。
そして、そのおばさんの背に隠れるように、お姫様が立っていた。
「奏(かなで)、レッスンはどうだった?」
おばさんがお姫様に聞いた。
お姫様は、俺の方をチラリと見てから、
「うん、楽しかったよ。」
と、とても小さな声でおばさんに答えた。
母も俺に気付いた。
「優音(ゆうと)、レッスンどうだった?」
「まあまあ。」
正直、そんな事、俺にはどうでも良かった。
今、気になるのは、このお姫様だけだ。
すると、母が、お姫様に俺を紹介したのだ。
「息子の優音(ゆうと)。
田崎 優音(たさき ゆうと)って言うの。
仲良くしてやってね。」
恥ずかしそうにするお姫様は、何も言わなかったが、コクンと小さく頷いた。
「奏(かなで)、ちゃんとご挨拶しなさい。
優音くん、この子、橘 奏(たちばな かなで)
って言うの。
恥ずかしがり屋で、なかなかお話できないかも
しれないけど、仲良くしてやってね。」
そう俺たちを紹介し合った母たちは、またおしゃべりを始めた。
俺は、おばさんの後ろに隠れる奏(かなで)のところに行き、声を掛けた。
「かなでちゃん、一緒に遊ぼ。」
すると、奏は、コクンと頷いて、花が咲いたように にこりと笑った。
「探検しよ?」
俺は、勇気を出して、奏の手を取った。
奏の手は、とても華奢で、俺が守ってやらなきゃって気にさせられた。
俺たちは、手を繋いで、音楽教室の中を探検した。
空き教室を見つけては、覗いてみたり、レッスン中の教室をドアのガラス越しに眺めてみたりした。
たったそれだけの事なのに、奏と手を繋いでいるだけで、ドキドキ、わくわくした。
奏は、何も言わなかったが、時々、クスクス笑う姿は、とてつもなくかわいかった。
しばらくすると、ロビーから、母の声が聞こえた。
「優音、帰るわよ〜。」
「行こ?」
俺は、奏の手を引いて、ロビーに戻った。
「奏、楽しかった?」
おばさんが尋ねると、
「うん。」
と奏がニコニコ答えた。
「じゃあ、また来週ね。」
母がそう挨拶したので、俺は、
「かなでちゃん、バイバイ。」
と言った。
すると!!
「ゆうくん、バイバイ。」
奏が小さな声で言った。
奏が初めて、俺を呼んで、俺に話し掛けてくれた!
俺は、普段、友達や周りの大人からは、『ゆうちゃん』って呼ばれる事が多かったから、初めて呼ばれた『ゆうくん』という呼び名は、とても新鮮で、特別な感じがした。
これが、俺の長い片思いの始まりだった。
帰りの車の中で、母は、バイオリンに乗り気じゃなかった俺を心配して尋ねた。
「どう?
来週からもバイオリン、がんばれそう?」
俺はもちろん、
「うん! 来週も来るよ! 楽しみ。」
と答えた。
優音の想い…
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. 出会い
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こんな事を言うと、絶対馬鹿にされるし、引かれるに決まってるから、誰にも言った事はないんだけど、俺は5歳の時、お姫様にあったんだ。
─── 5歳 春 ───
俺は、5歳の時、母の勧めで、バイオリン教室に通う事になった。
その頃の俺は、鬼ごっこやサッカーなど、外で遊ぶ方が好きだったから、バイオリンなんて全然やりたくなかったんだけど、ほんとは女の子が欲しかった母は、どうしても音楽を習わせたかったらしく、無理矢理、バイオリンをさせられる事になってしまった。
散々渋る俺だったが、母の
「がんばったら、帰りにアイス買おうね。」
と言う買収にいとも簡単に懐柔されてしまった。
意志薄弱な俺。
渋々、バイオリンのレッスンを受けて、帰ろうとレッスン室のドアを開けると、たまたま隣のレッスン室のドアも開いていた。
そこには、同い年くらいの女の子が廊下に背を向けて立っていた。
「ありがとうございました。」
かわいい声と共にお辞儀をするその子の背には、腰まで届くサラサラの長い髪があった。
お辞儀と共に、さらりと前に流れ落ちるその髪がとても綺麗で驚いた。
そんなに長い髪の子を見たのも初めてで、俺は思わず、目を奪われていた。
俺が見とれていると、女の子はくるりと向き直って廊下に出ようとしたので、俺と思いっきり目が合ってしまった。
お姫様がいる!
それが俺が彼女に抱いた第一印象だ。
色白で、とても大きな目をした彼女は、白くてふわりと広がるワンピースを身にまとい、その姿は、母に無理矢理、読み聞かせられる童話のお姫様そのものだった。
当時、俺は、お姫様に出会いたいとも思わないし、王子様になりたいとも思わない、どちらかと言えば、悪をやっつける特撮ヒーローに憧れる普通の男子だったはずなのに…。
彼女は、俺と目が合った瞬間、目を伏せて駆け出した。
えっ!?
一瞬で嫌われた?
俺は、めちゃくちゃ落ち込んだ。
分かり易く どよ〜んとした空気をまとって、ロビーで待つ母の元へ戻ると、母の隣に見知らぬおばさんがいた。
そして、そのおばさんの背に隠れるように、お姫様が立っていた。
「奏(かなで)、レッスンはどうだった?」
おばさんがお姫様に聞いた。
お姫様は、俺の方をチラリと見てから、
「うん、楽しかったよ。」
と、とても小さな声でおばさんに答えた。
母も俺に気付いた。
「優音(ゆうと)、レッスンどうだった?」
「まあまあ。」
正直、そんな事、俺にはどうでも良かった。
今、気になるのは、このお姫様だけだ。
すると、母が、お姫様に俺を紹介したのだ。
「息子の優音(ゆうと)。
田崎 優音(たさき ゆうと)って言うの。
仲良くしてやってね。」
恥ずかしそうにするお姫様は、何も言わなかったが、コクンと小さく頷いた。
「奏(かなで)、ちゃんとご挨拶しなさい。
優音くん、この子、橘 奏(たちばな かなで)
って言うの。
恥ずかしがり屋で、なかなかお話できないかも
しれないけど、仲良くしてやってね。」
そう俺たちを紹介し合った母たちは、またおしゃべりを始めた。
俺は、おばさんの後ろに隠れる奏(かなで)のところに行き、声を掛けた。
「かなでちゃん、一緒に遊ぼ。」
すると、奏は、コクンと頷いて、花が咲いたように にこりと笑った。
「探検しよ?」
俺は、勇気を出して、奏の手を取った。
奏の手は、とても華奢で、俺が守ってやらなきゃって気にさせられた。
俺たちは、手を繋いで、音楽教室の中を探検した。
空き教室を見つけては、覗いてみたり、レッスン中の教室をドアのガラス越しに眺めてみたりした。
たったそれだけの事なのに、奏と手を繋いでいるだけで、ドキドキ、わくわくした。
奏は、何も言わなかったが、時々、クスクス笑う姿は、とてつもなくかわいかった。
しばらくすると、ロビーから、母の声が聞こえた。
「優音、帰るわよ〜。」
「行こ?」
俺は、奏の手を引いて、ロビーに戻った。
「奏、楽しかった?」
おばさんが尋ねると、
「うん。」
と奏がニコニコ答えた。
「じゃあ、また来週ね。」
母がそう挨拶したので、俺は、
「かなでちゃん、バイバイ。」
と言った。
すると!!
「ゆうくん、バイバイ。」
奏が小さな声で言った。
奏が初めて、俺を呼んで、俺に話し掛けてくれた!
俺は、普段、友達や周りの大人からは、『ゆうちゃん』って呼ばれる事が多かったから、初めて呼ばれた『ゆうくん』という呼び名は、とても新鮮で、特別な感じがした。
これが、俺の長い片思いの始まりだった。
帰りの車の中で、母は、バイオリンに乗り気じゃなかった俺を心配して尋ねた。
「どう?
来週からもバイオリン、がんばれそう?」
俺はもちろん、
「うん! 来週も来るよ! 楽しみ。」
と答えた。