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バレンタイン

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2月。

町中にチョコレート売り場が目立つようになり、バレンタインの訪れを告げていた。

私の中では、トラウマとも言えるバレンタインと誕生日。

どちらの失恋も本当の意味での失恋ではないと分かった今でも、やはり傷ついた当時の思いは消える訳ではなく、切ない痛みを思い起こさせた。


だけど、今年は違うはず。

私は、心を奮い立たせて、準備を始めた。


仕事帰りに買い物に行く。

かわいいラッピング資材を求めて、お店を回る。

実家に帰って、愛用のケーキ型やハンドミキサーを取って来た。

材料の板チョコ、バター、卵などを揃える。



2月13日(水)

帰宅後、ガトーショコラを焼く。

これは、小学生の頃から、毎年、母と焼いていた我が家定番のバレンタインケーキ。

小学生の頃から、毎年、ゆうくんにあげてきた。

中学生になっても、義理チョコのふりをしてあげ続けた。

ゆうくんは覚えてくれてるかな?


焼きあがったガトーショコラを冷蔵庫で冷やす。

続きは明日。


2月14日(木)

仕事を終えて帰宅すると、冷蔵庫からガトーショコラを取り出す。

丁寧にカッティングして、ラッピングする。


本棚から、テーマパークのお土産の空き缶を取り出した。

チョコレートクランチが入っていた大きめのオーバル型の缶を開けると、中には子供の頃からの私の宝物が入っている。

音符のキラキラしたシール
ピアノのメモ
音符柄のシュシュ
バイオリンのブローチ
などなど………

いろいろ入っているそれら全てが、小さい頃から ゆうくんがくれたプレゼント。

ゆうくんは、いつも誕生日プレゼントを用意してくれてた。

私はその中から、音符柄の名刺サイズのカードを取り出し、ゆうくんへのメッセージを書く。

チョコにカードを同封して、準備完了!





18時30分。

ゆうくんが迎えに来た。

手を繋いで、駅の反対側にできたフレンチレストランに向かった。

大人気でなかなか予約が取れないらしいのだが、ゆうくんは随分前から予約してくれてたらしい。


19時。
シャンパンで乾杯。

「奏、誕生日おめでとう。」

ゆうくんが優しく微笑んだ。

「ありがとう。」

ゆうくんが頼んでおいてくれたコース料理を食べながら、幸せな時を過ごした。

最後のデザートを食べ終わり、私は、ガトーショコラの入った紙袋をテーブルに出した。

「ゆうくん、これ、もらって。
ゆうくんが大好き。
子供の頃から、ずっと義理チョコのふり
してたけど、ほんとはずっとあれも本命チョコ
だったよ。」

ゆうくんは、嬉しそうに笑った。

「中学生の頃の俺に聞かせてやりたいなぁ。
あの頃、奏は俺の事、友達としか思って
ないから、河合の応援してると思って落ち
込んでたんだからな。」

「ご、ごめんなさい。」

私がしゅんとして謝ると、

「いいよ。もう気にしてないし。」

と、ゆうくんは頭を撫でてくれた。

「開けていい?」

「いいよ。」

ゆうくんは、袋を開くと、目を細めて嬉しそうに笑った。

「ありがとう。
俺が毎年、楽しみにしてたやつだ。
帰って食べるのが楽しみ。」

と言って、袋を閉じた。

そして、

「じゃあ、今度は俺から。」

と小さな箱を取り出した。

「誕生日おめでとう。」

「ありがとう。」

私が受け取ると、

「開けてみて。」

と、ゆうくん。

「いいの?」

と聞くと、ゆうくんはにっこり頷いた。

ラッピングを解くと、中から黒いベルベットの小箱。

これは……。

微かな期待を胸に箱を開けると、中央の石が、店内の照明を受けて眩い光を放った。

「ゆうくん、これ……?」

「奏、結婚しよ。
ずっと奏を大切にする。
もう奏と離れたくないんだ。
一生、俺のそばにいて。」

ゆうくんの目が真剣な想いを物語っていた。

「はい……」

私は、胸がいっぱいで、喉の奥に何かがつかえたようで、それ以上、何も言えなかった。

ゆうくんは、私の手の中の小箱から指輪を取り出すと、私の左手を取って薬指にゆっくりとそれをはめた。

手を動かす度に、キラキラと光を放つそれは、私をとても幸せな気分にしてくれた。



誕生日って、幸せな日だったんだ……。



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1年後 2月14日(金) 19時。

今、父と歩いている。

目の前には、ゆうくん。

父の手を離れて、ゆうくんの前に一歩、踏み出す。


私は、28歳の誕生日の今日、田崎 奏(たさきかなで)になった。


私はこの先、一生、誕生日が来るたびに、この幸せな気持ちを思い出すに違いない。




ゆうくん、だいすき。

私のこと、好きになってくれて、ありがとう。

好きって、伝えてくれて、ありがとう。

誕生日を好きにさせてくれて、ありがとう。






─── Fin ───


この後、優音目線の物語が続きます。
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