靴箱に手をかけると後ろから肩を叩かれた。

「おはよう」

柚月と同じクラスの菅原湖夏(スガワラコナツ)だ。

「あ、おはよう」
「驚きすぎ。そんなに気配なかった?」
「うん、全然」

上履きに履き替えながら今日の授業のことを話していると、湖夏が「あっ」と言って柚月に目配せをする。

「京先輩だ。朝からラッキー」

相模京(サガミキョウ)先輩は校内で人気のある男子で、容姿も穏やかだと言われている性格も可愛くて守ってあげたい感じがするらしい。

そういえばあの電車の彼、先輩に似てるかも。
京先輩に懐かしい感じはしないけど、顔の系統やスタイルがどことなく似ている気がする。
柚月がそう思っていると

「どうしたの。柚月?」
「え、あ、なんでもない」
「そんなに見てたら、気づかれるよ。京先輩に。見るならね。こう視野の端っこからチラッとだけだよ。気持ち悪いと思われるから」
と盗み見のアドバイスをする。

「いや、先輩を見てたわけじゃなくて。いや、先輩を見てたんだけど」
「はいはい。何言ってるかわかんないですけどー。すごくわからないんですけどー」
「なんかね朝乗った電車に京先輩に似てる男の子がいたなと思って、まじまじ見ちゃっただけだよ」