案の定「嫌だな。ゆづちゃんも母ちゃんみたいで」とぼやく。
困ってる姿が可愛くてクスクス笑みが溢れた。
「そういえば、春って呼ばれてるんだね。春くん」
保奈美さんが呼んだ名前を柚月が悪戯っぽく呼ぶと「それで呼ばないで」と拗ねたように返す。
「えっ? そうなの? なんで?」
「本名、嫌いなんだもん」

だから最初から名前を名乗らなかったんだと納得する。
春という響きだけ聞くと嫌いな名前だなんて連想しにくいけど、それに繋がる何かがあったのかもしれない。
だけど、それ以上は言いたくないようにとれて、柚月は追求しなかった。

ただ、こうやって本当のハローくんを知っていくものかもしれないと思い直した。
これからきっと、まだ知らない彼の顔を知っていくんだろう。
そう簡単に人の内面を知れることではないだろうし、仲良くなっているのは自分だけだと思って拗ねていただけだと自覚した。

現に自分自身だって、ハローくんに嘘を吐いたことがあった。
彼に須長くんのママのことが嫌いかと尋ねられたとき、そうではないと言い切った。
今思えば、恐怖や須長くんのママだからそんな風に捉えてはいけないという気持ちで隠していただけだった。
でもそれだけで、どうにかしたいわけでもない。ただ嫌いなだけ、それだけだ。