「じゃあね、お姉ちゃん」
「うん。気をつけてね」
柚月も一度ホームに降りて、下車する人に道を譲った。奥にいた彼も人波に押されるように乗車口にたどり着くと、柚月の肩にぶつかった。
ごめんねと謝られ、その瞬間、目が合ったがやはり柚月のことは知らないようで駅のホームへ流れて行った。
どうしてこんなに気になるんだろう――。
その理由に心あたりがあったが、まさかそれはないと自分に言い聞かせた。そんなことが理由になんかなるわけない、気のせいだと。
柚月は今朝見た夢をもう一度思い返した。
あれには続きがある。
海が嫌いじゃかなかったかと美織に言われ、あの海を知っているというか、この島自体を前から知っている気がすると伝えるとどうしてか、また懐かしい気持ちが溢れ出し涙がこぼれてきたのだった。
すると美織は、しがみつくように柚月の腰に抱き着いた。
「嫌だ。お姉ちゃん、どこにも行かないで」
そう言われ、柚月は我に返った。
今まで舞台の上で、演技でもしていたかのような感覚に恥じらいを感じて、「ごめん。やっぱり来たことないや。気のせいだよ」と笑って返すと美織が安心したような顔をした。
だけどその腕の感覚は緩まなかった。来たことのない場所を懐かしいと感じることは人には言ってはいけないことで、家族を戸惑わせるだけだと柚月はそのとき実感した。