美織も柚月も同じ中高一貫校に通っている。美織のほうが先に降りるが、途中まで同じ電車で通学している。

仲のいい姉妹だと柚月は思っていて、美織は最近少し生意気な口を利くようになり、ママを困らせてはいるけど、年が五つ離れているせいもあるからか可愛いのは変わらない。

車両がガタンと揺れた。吊革を持っている美織の肩越しに白い学ランの男子が見えて心臓がドクンと跳ねた。

もしかして……あ、やっぱり、彼だ。

彼といっても名前など知らない。彼を見かけたのは帰りの電車の中で一度だけだからだ。

そのときの彼は電車の壁にもたれかかるように立っていた。
顔のラインが綺麗で、瞳を縁取る睫毛が長い。中性的な雰囲気があったが、しっかり喉ぼとけが出ている。
何か考え事をしているようにボーッとした様子で、ふと目元をぬぐうものだから、もしかして泣いているのかもしれないと柚月は彼を観察することをやめた。

柚月が電車を降りようと彼の前を通ると、偶然にも目があった。

良かった。泣いてない。だけど、悲しみを含んだような瞳に見えた。

それだけの出来事なのにひどく覚えているのは、彼のことを前から知っていて、とても懐かしい感じがしたからだ。