「うん、可愛いね」

美織が魚に手を伸ばすと右や左に散っていく。

「あーっ、行っちゃった。あっ、でも見て! あっちにも沢山いるよ!」

別の小魚の群れを見つけて、沖に向かって少し歩く。今度は逃げられたくないようでただ眺めては「可愛い」と美織ははしゃいでいた。

それから「ねえ、この黒いのなに?」と指をさして柚月に尋ねる。

大きい黒いかりんとうのようなものが、さっきから海の中に点在していたのには気づいていて、踏まないようにしていた。
それを手で掴み「ナマコだね」と美織に伝えた。

美織が顔をしかめ

「なにそれ超気持ち悪い! 捨てて! 捨てて!」
「あ、ごめん」

海にナマコを離した。

「ていうかお姉ちゃん、なめくじとか嫌いなのに、どうしてそんなの持てるの?」
とわけがわからないといった顔をした。

「え?」

言われてみればそうだ。私、こういうの好きじゃなかったはずだ。だけど自然に手が伸びていた。

「ていうか、お姉ちゃん海に入るの嫌いじゃなかったっけ」