確かに会えない間に美化してしまうことはあるのかもしれない。
この気持ちも会えないからこそ、気になる思いが増幅しているだけといえばそうなのかもしれない。

宏くんは私とは違って、ちゃんと好きな人がいるみたいだった。
それが自分の感覚であるとわかってるんだなーー。
自然に生きてたら、みんな自分の感覚というものがわかるんだ。私もそういえば昔はそうだったっけ。

それにしても、バカ発言はなんだったんだろう。
そんな検討違いなこと言った覚えはないのにな。

帰りの電車の中、柚月は考え事をしながら溜め息をついた。吊革を持つ手もなんとなく力が入らない。

「あれ、お姉ちゃん」
電車に乗り込む人の中に美織がいた。
「美織。帰りの電車で一緒になるなんて、珍しいね」
「そうかも。今日部活休みだったからかな。そういえばさ、今ここの駅前で喧嘩してる人いたんだけど」
「喧嘩?」
「うん、高校生だと思う。白い学ランと違う学校の人」

白い学ランと言われ、柚月はハローくんのことを思い浮かべた。ここの駅で降りたら、彼に会える可能性があるのかもしれないんだ。
だけどさすがにそれは、ストーカーみたいだと考え直す。

「やめてほしいよね、ああいうの」
「うん、怖いね。近づいたらダメだよ」
「近づくわけないでしょ。子供扱いしないで下さい」と美織はそっぽを向いた。