「ちょっとお姉ちゃん、待ってって言ったじゃん」

少し不貞腐れた美織が柚月の横に並ぶ。怒っているとアピールしているのに柚月が何も反応せずに海をただ見つめ続けていることが不思議に思えて

「お姉ちゃん」と呼んでようやく「美織、前にもここに来た事あるよね」と訊き返した。

美織にとって初めて来たところではあるし、この旅行の前にパパが「パパもママも行ったところがないから楽しみだ」と言っていたのを覚えている。

家族旅行では来たことはないし、沖縄よりもっと南にあるこの島に柚月が学校行事では来ていないだろうと美織でも想像がついた。

「何言ってるの。ここに来たの、初めてじゃん。パパもママも沖縄までは来たことあるけど、もっと先には来たことないから楽しみだって言ってたじゃん」
「でも私、ここの海を知ってるよ。来たことがあるよ」

柚月はワンピースの裾をたくし、風で帽子を飛ばされぬよう押さえながら遠浅の海に足を入れる。白い砂や泳いでいる小魚まではっきりと見える透明さだ。

「可愛い。カラフルなお魚さん」

美織は腰を屈める。