「ちなみに今のおすすめは安納芋のスイートポテトです」
「じゃあこれにする。めっちゃ美味しそうだよね」
「うん。めっちゃ美味しいよ」

お会計をすると「ありがとう」と彼は出て行った。

買いに来てくれただけなのだから、それくらいの会話しかしないのは当たり前のようなものなのに、もう少し話をすれば良かったーーそんな後悔が柚月の胸を曇らせていた。

彼と仲良くなれたら、もしかしたらこの違和感の正体がわかるかもしれなかったのに。
何の繋がりもないのだから、また振り出しに戻ってしまっただけだ。

「なんか可愛い子だね。無邪気というか。顔も綺麗だけどさ」
鹿石さんが言う。

「あ、そうですね。ちょっと中世的ですよね」
「また来るといいな」

確かに、また来てくれたらいい。そう思い直してから、お疲れ様ですと制服に着替えた。
外はもう真っ暗だ。肩にかけていた鞄のずれを直すと、地下鉄の入り口の脇に立っている先程の彼を見つけた。

「ゆづちゃん」と手を振る。
どうしているのかとびっくりする。

「ごめん。本当はこれを返すつもりでいたのに、忘れてた。戻ったらお店、閉まってたからここで待ってたんだ。良かった、会えて」

手渡されたのは紙袋に入れられていたハンカチで、この前柚月が貸したものだと気づく。すっかり忘れていた。