ふと真っ直ぐ伸びた子供の声で
「ありがと!」
と聞こえ、横を向くと少し先に先程の母親と男の子がいて、こちらに向かって叫んでいたようだ。

さっきハローくんが言ったことが伝わったとしたなら、感謝を感じるタイミングは人それぞれで、それは互いの関係性によるもののような気がする。

手を振り返すと、男の子も同じように手を振り返し、その先にいた父親らしき人に駆けよって足に抱きついた。

幼い頃にしか父親はいなかったけど、あの位の年、どこかの広場で迷子になった。必死で探して見つけたとき、思わず父親の足にしがみつくように抱きついたことがある。

それから泣いてる自分をあやすように抱いてくれた。

顔や声は全然記憶にはないけど、今思うとあの瞬間に優しさの愛はあったように感じる。

じゃなければ、自分はあんな風に抱きついたりしなかっただろう。

父親は生きてるか死んでるかさえ知らないし、別れてから一度も会いに来たことはない。

嫌いになったから会いに来ないのだと自分を責めた時期もあったけど、今、自分がここにいて、周りの優しさを感じられるということは、父親のそんな愛にずっと守られていたのだと思う。