彼は空を仰ぐと
「ここの中庭で日向ぼっこをするのが好きだった」
「え?」
「瑞樹がね」
「そっか」

彼にとって、この病院は瑞樹くんが亡くなった場所でもある。懐かしさを感じるのは当然かもしれない。

「さっきの柚月みたいに風邪ひくって言っても、もう少しっていつも言っててさ。
亡くなる何日か前も調子が良かったから、ここで一緒に日向ぼっこをした。
あんまり会話はしなかったけど、嬉しそうに日を浴びてる姿が今も思い浮かんでくるよ」
見たことはないのに、このベンチで佇む幼い二人の姿が思い浮かんだ。
そしてその横に優しい瞳でその様子を見守っている須長くんのママの姿も見えてくる――。
柚月がそれに気がつくと、罪悪感が湧いて抑えられなくなった。

涙がこみ上げてきて
「ごめんなさい」
と柚月は謝っていた。

「え、何が?」
「私、誤解してた。その……宏くんには言えなかったんだけど、宏くんのママのことずっと怖いって思ってた」
「え?」

驚いていたが、柚月がずっと胸の中で感じていたことを伝えると、怒るどころか腹を抱えて笑われた。

「なんで笑うの?」
「あ、ごめん、ごめん。うん、なんか瑞樹が亡くなった後、本当に凄かったから、柚月が怖いって思うのもわかるなと思って」