「私ね、長期の入院っていうのが、命に関わる病気だったの。心臓がダメでね。
移植しないと助からないって言われて。
でも運が良かったのかな。臓器移植できて生き延びられたの。
私もね、ここに傷があるよ。ハローくんの手の傷みたいに」
柚月は胸の真ん中に手を当てた。
苦笑いをして「全然違うじゃん」と返す。
首を横に振り、
「さっき思い出してたのは、家族とかお世話になった先生とか看護師さんとか。
同じような病気の友達とか……色々。
すごく助けてもらったなーって。
それなのに、私、生きてて良かったのかなって、たまに思うんだ。
私じゃなくて他の人の命が助かるべきだったのかなって」
「なんで?」
「私が助かった後にね、友達が同じような病気で亡くなっちゃって。
その子の親に私が助かってなんでこの子は助からなかったのって直接じゃないけど、言われたことがあったんだ。
私が生きてることが、誰かに否定された感じがしちゃって、生き伸びて良かったのかなって変に考えちゃって」
「否定って、そんなの関係ないじゃん。考えすぎだよ」
「そうだよね。考えすぎだよね。でも誰かの何気ない一言がずっと胸の中にあることってない?」
「すぐに忘れるからわかんない」
そんな気持ちはないと言うように突っぱねた。
柚月はそれが嘘に聞こえ、胸が押しつぶされたような苦しみを覚える。
「……ハローくん、訊いてもいい? 小学生の頃のこと。宏くんから聞いちゃったんだ。その……虐められてたってこと」
表情が強張ったけど、見開いた瞳はすぐに力をなくした。
それから「いいよ」と静かに答えた。