彼が速度を緩め柚月の隣に並ぶと、そのまま腕を取り「まくよ」と走るペースをあげさせられた。

マンションの裏通りを抜けていく。
それから大通りに戻り、信号が青になっていたからそのままかけていく。
しばらくぐるぐる走りようやく公園の中に辿り着くと、彼の足が止まった。

マラソンでもしたかのような息切れと汗が吹き出る。
すっかり疲れきって、その場にしゃがみこんでしまった。

何の為に走ったかもわからないのに、追っ手がいなくなったことで、長い鬼ごっこから解放されたような達成感だけはあり、段々とおかしさが込み上げてくる。

彼と目が合うと、同じような顔をしていてどちらからともなく噴き出して大笑いした。

「ていうか、あの瓶投げられたの俺じゃなくて君だったの? 君が全力疾走して逃げていたってことは?」

彼が尋ねる。

「え? 私ですか? そんなことされる覚えないんですけど」

第一振り返る余裕もなく後ろも見れなかった。誰に追われていたのかさえわからない。

「え、じゃあなんで逃げてたの?」
「あなたが逃げるかって言うから、私に言ってきたのかと思って。一緒に逃げるっていう意味だと思って、それで……」
「ごめん。めっちゃ独り言だったのに」と彼は肩を揺らして笑った。